モーパッサン『ベラミ』を読む(連載45) ──『罪と罰』と関連づけながら── 清水 正

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有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載45)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 ノルベール・ド・ヴァレヌの死生観はフォレスチェにもあてはまる。フォレスチェは詩人ではないから、自分の死生観を言葉巧みに語ることはできないが、それだけに彼が死の間際に妻とジョルジュを前にして口にする言葉は生々しく伝わる。

 

  ――こんな夕日が、もうあと何遍見られるだろうな? ……八遍……十遍……十五遍か二十遍……ことによったら三十遍か……それから上は駄目だな……君たちは、まだ先が長い……僕は駄目だ……そしてこういう光景は続いていくのだ……俺が死んだ後でも、俺が生きているのと同じに……(上巻・267)

  ――何でも見るものすべてが、何日かたつとこれが見られなくなるのだということを僕に思い出させるのだ……怖ろしいことだ……もう何にも見られなくなる……存在しているものすべて……手にとる小さな品物……コップだの……皿だの……あんなに気持よく休息のできる寝台とか、馬車とか。夕方、馬車で散歩するのは気持がいいから……僕はこういうものがほんとに好きだったな!(上巻・267~268)

 

 ここに見られるのは世俗的人間のごくありふれた死に対する思いである。死によってひとは現世における慣れ親しんだすべてのものと永遠に別れなければならない。現世への未練をすっぱり断ち切って死へと赴く覚悟はなかなかできるものではない。しかし、この死をすべての生きる者は受け入れるしかないし、現にそうしている。だれもが例外なく受け入れている死に直面して、フォレスチェの生に対する未練は度を越しているし、美と自然性を微塵も感じさせない。それは彼が死の自己鍛錬を欠いていた結果とも言えよう。彼はジョルジュと同じく、かつて軍隊に所属し、不断に死の危険性に晒されていたはずなのに、これでは一般的な世俗人に見られる死に対する月並みな恐怖を体現しているにすぎないことになる。

    ノルベール・ド・ヴァレヌの場合もそうであったが、両者には死の肯定がないし、諦念がない。死に対して未体験の多くの者が、自らの死に直面して平静を失うことはよく理解できる。ふつう誰もが自らの死を特別に免除されることを願うか、あるいは延命を期待する。しかし、いくら長生きをしても結局は死ななければならない。それに死があるからこそ生の意義が際だつ。もし人間が永遠に生きる運命を授けられたとしたら、その運命をすべての人間が呪うであろう。人間は現世における〈永遠の生〉に耐えることはできない。すべての人間に〈永遠の生〉が保証された時点で、すでに世界は滅びるであろう。期限付きの命を与えられているからこその喜怒哀楽の人生であり、そこにドラマが展開される。人間はこのドラマの中の一人物の役割を果たしてその生を閉じるのである。ノルベール・ド・ヴァレヌもフォレスチェも、彼らの死生観は一方的な悲観的な観点から成立している。死を突き詰めて考え抜き、生死を超脱して悟りの境地に達する途が予め閉ざされている。死は現世からの解放であり、身体からの完全な自由である、といった考えはまったく見られない。

 

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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