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モーパッサン『ベラミ』を読む(連載31)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 少し翻訳の問題について考えてみよう。先の引用場面の最後に「サン-ラザールかルーネシーヌで保護している時は別だがね」とあるが、〈サン-ラザール〉と〈ルーネシーヌ〉が何を意味しているのか分からない。そこで他の翻訳テキストを見てみると、角川文庫・木村庄三郎訳、筑摩世界文學大系47・中村光夫訳に脚注はなく、新潮世界文學全集22・田辺貞之助訳だけが本文中に訳注として〈サン・ラザール=パリの公立婦人病病院〉、〈ルールシーヌ=パリの懲治監獄〉と記している。正直言って訳注がなければこれらの言葉を理解することはできない。翻訳者はどの程度のレベルの読者を想定しているのか知らないが、外国文学の翻訳の場合、基本的な情報は訳注などで知らせてもらいたいと思う。調べれば分かることかも知れないが、調査の段階でへたな誤解を生む可能性もあり、予め的確な情報を与えられた方がありがたい。

 おそらく『ベラミ』の同時代のパリの読者は解説や注などなくても〈サン-ラザール〉や〈ルーネシーヌ〉が何を意味しているかよく承知していただろう。またフランス文学やフランスの文化・歴史に詳しい専門家にとってもこれらの言葉は常識であったかも知れない。わたしは訳注で初めてその意味を知ってフォレスチェの言うことを理解した。『罪と罰』の翻訳の場合、画期的な脚注で読者の便をはかったのが江川卓である。翻訳で世界の名作を読む場合、神話やキリスト教の基本的な知識は欠かせない。江川卓の脚注は、単なる語義解釈にとどまらず、『罪と罰』の新たな解釈に寄与する重要なヒントを読者に与えることになった。いずれにせよ、読者が最も注意しなければならないのは、分からないことを分かったようなつもりで読み進むことである。

 娼婦と婦人病治療と懲治監獄は切っても切り離せない関係にある。フォリ・ベルジェールにたむろする娼婦たちの表舞台の背後に病院や監獄といったリアリズムが控えている。フォレスチェの眼差しは表舞台の背景に潜む闇にも注がれている。

 ところで『罪と罰』ではソーニャが娼婦として設定されているが、その現実に対して作者は完璧に照明を与えない。ソーニャは黄色い鑑札を受けている公娼だが、作者は当時の公娼制度に関して何の情報も提供していない。従って読者は、ソーニャがどのような手続きを経て黄色い鑑札を受けることができたのか、公娼の義務や、その義務を怠った場合の罰則など何一つ知ることができない。避妊の手段、性病対策や治療に関して予め担当者からしかるべき説明があったのかどうか、要するに娼婦ソーニャの現実に関して読者はなにも知らないままに、ソーニャのイメージを構築していくことになる。

 描かれた限りで見れば、ソーニャはただ一人の客も取っていない〈キリスト者〉であり、読者はソーニャに聖的なイメージを持つことになる。描かれざる娼婦ソーニャの稼ぎの実態に照明を与えれば、ソーニャもまた金勘定したり、客に媚びを売ったりする場面も浮上してくることになるだろう。モーパッサンなら当然のこととしてそういった場面にも照明を与えただろうが、ドストエフスキーはソーニャの形而下的側面に関しては完璧にスルーした。〈少女小説〉のヒロインは汚れた女であってはならないとばかりに、ソーニャはどんな場面においても〈聖衣〉を脱ぎ捨てることはなかった。

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令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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