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モーパッサン『ベラミ』を読む(連載27)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 

 フォリ・ベルジェールに着いた二人をモーパッサンは次のよう描いている。

 

  劇場の建物の電飾を施した正面が、その前で一緒になっている四つの通りに大きくあかりを投げている。一列に並んだ辻馬車がはねを待っていた。

  フォレスチェがぐんぐんはいって行こうとするので、デュロワが呼びとめた。

  ――切符売場は、君、そっちじゃないよ。

  フォレスチェはもったいぶった調子で答えた。

  ――俺と一緒なら金を払うことはないよ。

  フォレスチェが入口のほうに近づいて行くと、三人いた切符受取人がいっせいにお辞儀をした。真中にいた男が彼の方に手を差しのべた。新聞記者は訊いた。

  ――いい桟敷があるかい?

  ――ございますとも、フォレスチェ様。

  彼は差し出された桟敷券を受取り、開きが革張りになっているクッションを設置した扉を押した。そして二人は場内にはいって行った。(上・26)

 

 フォリ・ベルジェールウィキペディアでは次のように解説している。

 

 パリ9区リシェ通り32番地(32 Rue Richer,9eme Arrondissement)に、プリュムレ(Plumeret)の設計で歌劇場として建てられた。1869年5月2日、トレヴィズ通りとリシェ通りの角にあったことにちなみ、『フォリー・トレヴィズ(Folies Trevise)』の名で開業し、レヴィー、オペレッタ、オペラ・コミック、流行のシャンソン、体操のショーを見せた。しかし貴族のトレヴィズ公が自分と同じ名前であることを嫌がったため、近くにあるベルジェール通りにちなみ1872年9月『フォリー・ベルジェール』に改称。

 開店当初は、無名の歌手によるオペレッタやパントマイムといった出し物が主だったが、1870年代にアクロバットやへび使い、カンガルーのボクシングや世界一の大男などといった見世物的なヴォードヴィルショーが始まると、大いに賑わい、娼婦なども行き交う大人の社交場として人気を集めた。

 

 ジョルジュがフォリ・ベルジェールに多大の興味を抱いていたことはすぐに分かる。彼は何度もこの劇場の前に立ち止まり、切符売場がどこにあるかを確認していた。しかしビールも満足に飲めない年収千五百フランの彼には、この人気の劇場は高嶺の花であり、踏み込むことのできない憧憬の娯楽場であった。ところがフォレスチェは切符なしで出入りできる特権を持っており、この劇場に特別の興味を抱いていない。フォレスチェは新聞記者であるから、出し物の紹介記事など書いて、劇場側に恩を着せていたのだろう。要するにフォレスチェとフォリ・ベルジェールの関係はwin winの関係にあり、持ちつ持たれつの関係にあったということである。

 さて、それでは二人が入っていったフォリ・ベルジェールとはどういう所なのかを見てみよう。モーパッサンは次のように書いている。

 

  タバコの煙が、非常に薄い霧のように、遠くの方を、舞台と場内の向い側とを、少しぼかしていた。ここにいるすべての連中がふかす葉巻や紙巻から、白い細い糸になって、休みなしに立ち昇りながら、この軽い靄はぐんぐん上に昇って行き、天井の近くにかたまって、大きな円天井の下に、シャンデリアのまわりに、観客でいっぱいの二階のバルコンの上に、煙の雲の立ちこめた空を形作っていた。

  飾り立てた女の群が、いやにくすんで見える男の群衆に混ってうろついている、弧状の遊歩場に続く入口の広い廊下に、色香の褪せた上から白粉だけをごてごて塗った、飲物と色事を売る三人の女の坐っている三つの売場の前で、一群の女が客待ちをしている。

  丈の高い鏡が、女たちの後ろから、彼女たちの背中と廊下を通って行く人間の顔を写している。(上・27)

 

  最初に描かれるのが場内に立ちこめるタバコの煙である。今まで、タバコについてはまったく触れられていない。ジョルジュはタバコを口にしていないし、描かれた限りでみれば喫煙家とは思えない。またフォレスチェは気管支カタルであるから、ふつうに考えればタバコは吸えないし、煙が立ちこめる劇場になどは足を運ばないのが賢明である。それに今夜のパリは蒸し風呂状態であるということはすでに報告されている。ジョルジュがフォリ・ベルジェールに行きたいと言ったとき、フォレスチェは「冗談じゃない! 釜の中へはいったみたいにうだってしまうぜ」と呆れている。しかし、フォレスチェが承諾したのは、先の引用箇所で見たように、劇場の〈面白さ〉以上に、自分の特権的立場をかつての戦友に見せびらかしたかったのかも知れない。今でこそ、劇場に冷暖房装置が設置されているのは当たり前だが、当時の劇場にそんな装置は施されていず、文字通り〈釜の中〉であったろう。気管支カタルのフォレスチェがタバコの煙が蔓延する〈釜の中〉へと入っていくのであるから、それ相応の覚悟を必要としただろうが、ここでも虚栄心が勝利を収めたということであろうか。

 もう一つ考えられるのは、『ベラミ』がパリの名所案内のような役割を積極的に担っていることである。フォリ・ベルジェールはパリ人にとって自慢の劇場であり、作家のうちに外国の人々(読者)にも知って欲しいという願望が働いたのかも知れない。それにこのフォリ・ベルジェール劇場には〈飲み物と色事〉を売る女たち、まさに女たらしジョルジュの欲望をかなえる役者たちが揃っている。まさに『ベラミ』第一日目の最後を飾るにふさわしい場所であっと言える。

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