プーチンと『罪と罰』(連載34)

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プーチンと『罪と罰』(連載34)

清水正

 

 さて、この辺でドストエフスキーの〈戦争観〉をみておこう。日本で初めてドストエフスキー作品の個人訳を達成した米川正夫河出書房新社ドストエーフスキイ全集15『作家の日記』下巻の解説で次のように書いている。

  ダニレーフスキイにいわせれば、ヨーロッパ文化は十六世紀、十七世紀において精神的頂点に達し、十九世紀にいたって物質的頂点をきわめたので、今やすでに崩壊の前夜にのぞんでいるが、それに反して、スラブ文化は若々しい強健新鮮な力を中に蓄えているから、老朽したヨーロッパ文明に代わって、将来の世界歴史において主役を演じるべきである。そのさい、スラブ諸民族はロシヤを盟主に頂いて連邦を組織し、ギリシヤ正教の大旆を翻えし、その総本山たるソフイヤ大伽藍の所在地であるコンスタンチノープルを、すべからく連邦の首都となすべしというのである。

  この論文は、当時フローレンスにあったドストエーフスキイにも、異常な感銘を与えた。(511)

 

    ドストエーフスキイ自身もいっているとおり、彼は『ロシヤとヨーロッパ』の中に、なに一つ新しいものを発見したわけではあるまいが、おそらく自分の所信に科学的裏づけを得たような気がしたに相違ない。なにぶんにもクリミヤ戦争の失敗(一八五五年)とポーランドの叛乱鎮圧(一八六三年)によって、ロシヤに対するヨーロッパの反感憎悪はようやく深刻化して、ロシヤ人の愛国心は数々の苦悩を味わなければなぬ時だったので、時宜を得たダニレーフスキイの論文の出現は、彼にとって溜飲の下るような思いだったろうと想像される。ことに一八七六年、ちょうど『作家の日記』の創刊の年に勃発したバルカン戦争は、この論文の思想にさらに拍車をかけ、これを事実によって肉体化せんとする要求にまで駆り立てたのである。

  この戦争の口火を切ったのは、一八七五年ヘルツェゴヴィナモンテネグロにおこった叛乱であって、つづいて翌年ブルガリヤにも、トルコの暴圧政治に抗する大規模な叛乱がおこり、トルコ政府は叛軍鎮定のために軍隊を出動させた。長いあいだ力の捌け口を見いだせないでいたロシヤの愛国心は、これを機として旺盛な活動を開始した。チェルニャーエフ将軍を指揮者とする義勇軍の出発、新聞や慈善団体による義捐金の募集等、同胞でありかつキリスト教徒であるスラヴ民族を、異教徒トルコ人の暴虐より救済せよとの叫びは、非常な勢いでロシヤ全国にひろがっていった。こうして、農奴解放者たるアレクサンドル二世の政府は、一八七七年、スラヴ民族解放を名として、トルコに戦いを宣した。

  当時、ロシヤのインテリゲンチヤの大部分は、反戦的な気分をうちに

蔵して、懐疑論を口にしていたにもかかわらず、ドストエーフスキイは満腔の熱意をもって、この戦争を歓迎し、支持したのみならず、「コンスタンチノープルはわれらのものたらざるべからず」という主張をはばからず堂々と高唱したのである。この叫びは、「歴史のユートピア的解釈」(一八七六年六月第二章四)にまず第一声を発し、さらに翌一八七七年の日記においても、一再ならずくり返された。それがために進歩主義の論者から、度すべからざる好戦主義者、侵略論者として顰蹙されたのはいうまでもないだろう。

  最高の意味におけるレアリストであったドストエーフスキイが、はたしてツァーリの政府のコンスタンチノープルに対する侵略的野心を疑うことなく、ナイーヴにこの宣戦を単なる人道的同胞愛を動機とするものと信じていただろうか? われわれはこれに対して「しかり」と答えるには、あまりにもドストエーフスキイの複雑さを知りすぎている。おそらく、彼は自分の宗教的・人道主義ユートピアと、政治的現実との斬りむすぶ一点に、なんらかのより良きものが生まれ出るものと期待していたのであろう。(512~513)

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