プーチンと『罪と罰』(連載1)

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近況報告

相変わらずの神経痛生活を送っているが、ロシアのウクライナ侵攻問題は長引きそうな様相を呈してきた。わたしは極力、時局的なことに関しては発言を控えてきたが、今回はずっと書き続けている『罪と罰』論の一部として本ブログに何回かにわたって連載したいと思う。タイトルは「プーチンと『罪と罰』」としておく。

 

プーチンと『罪と罰』(連載1)

清水正

 

 四ヶ月の空白をおいて執筆を再開する。二月二十四日よりロシアによるウクライナ侵攻が始まり、依然として決着がついていない。この四ヶ月の間、ウクライナ関係の動画を観ながらいろいろと考えさせられた。プーチンはまるで独裁者のように振る舞っている。彼は戦場において殺人を余儀なくされる人々の心のうちをどのように考えているのだろうか。話し合いによる決着がつかない場合は、武力をもって解決をはかるという、人類史上例外なく行われてきた手段をプーチンは決断し実行に移した。ウクライナの大統領ゼレンスキーもまた断固として戦う意志を表明し、西欧諸国の応援を仰いでいる。戦争は容易に終結する見込みがたっていない。

 わたしはトルストイの宗教論文をまとめて読んだ。「神の王国は汝らのうちにあり」「教義神学の批判」「懺悔」「わが信仰はいずれにありや」などである。正直言って退屈であった。一ページで書けることを百ページも二百ページも費やして書いているように思えた。キリストの教え、その一つだけでもいい、たとえば「『目には目で、歯には歯で。』と言われたのを、あなたがたは聞いています。しかし、わたしはあなたがたに言います。悪い者に手向かってはいけません。あなたの右の頬を打つような者には、左の頬も向けなさい。あなたを告訴して下着を取ろうとするする者には、上着もやりなさい。」(マタイ福音書第5章38~40節)を忠実に守ることがキリスト者であるなら、キリスト者に求められているのはその実行あるのみである。今、ウクライナ戦争を眼前にして、このキリストの言葉を実行しているキリスト者が世界に何人いるだろうか。テレビの報道番組のコメンテーターに政治・経済・軍事の専門家が招かれても、キリスト者は招かれない。「右の頬を打つような者には、左の頬も向けなさい」とか「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」(マタイ福音書第5章44節)などと口にすることは、祖国を守るために戦っているウクライナ国民に対する最大の侮辱とさえ受け取られかねない。テレビは今でも〈民主主義〉という幻想を後生大事に守っており、それを基盤に政治・経済・軍事に関するコメントを許しており、未だ宗教や文学の次元でのコメントを無自覚のままに封印している。

 先日、動画を観ているとロシア正教会のキリル総主教が出ていた。彼はプーチンウクライナ侵攻を支持する総主教で、画面ではプーチンと仲良く並んで歩いていた。トルストイは執拗に厳しく正教会批判を展開していたが、戦争を支持するキリルが現在のロシア正教会のトップに君臨していることだけを見ても、トルストイの批判は的を射ていると言えよう。莫大な金をかけた荘厳豪華な正教会堂、キリル総主教が身にまとったキンピカピカの僧衣、いかにも威厳ありそうな杖など、トルストイの言葉を待つまでもなく、いかに〈正教会〉がキリストの教えと深く断絶しているかが明白である。福音書を読むことのできる現代の正教徒たちは、キリストの教えをどのように受け止めているのだろうか。

 別の動画で、ロシアから亡命している作家アクーニンが登場、彼は厳しくプーチンを批判、本当のロシアはプーチンが支配するロシアではなく、ドストエフスキートルストイチェーホフのロシアこそ本当のロシアなのだと語っていた。いったい今のロシア人たちは、これら十九世紀の偉大な文豪たちの作品をどのように読んでいるのだろうか。トルストイは暴力否定と正教会批判で、キリストの愛と赦しを引き継いだ。ドストエフスキーは、人間の心は神と悪魔の永遠に決着のつかない広大無辺の戦場だと言った。ドストエフスキーの大いなるディオニュソス的精神世界にあっては、絶対正義・真実としての一義的主張をなすことはできないが、しかし彼こそはサストラダーニィエ(сострадание=同情・憐憫)を誰よりも深く描いた作家であることに間違いはない。

 

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発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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