瀬島匠展が日大芸術学部のA&Dギャラリーで開催中

瀬島匠展が日大芸術学部のA&Dギャラリーで開催中

(2019-5-21~5-31)

 

先日5月21日、講義を終えて守衛室に向かう途中、A&Dギャラリーからただならぬオーラを感じたので、ただちに中をのぞいてみることにした。はじめ、美術学科の卒業生の展示なのかと思ったが、そんなわけはないだろうと直観し、名前を見ると瀬島匠とある。

あとでわかったが、瀬島氏は今年度から美術学科の教授に就任している。わたしは3月で教授職を退任し、教授会にも出席していなかったのでしらなかった。

それにしても、瀬島氏の絵画は迫力満点である。わたしは氏の絵画の前にしばしたたずみながら、絵画から発するエネルギーの放射を全身に浴びた。

打ち寄せる無数の波しぶきに激しく熱い精神の波動を感じる。海と空の自然に真っ向から立ち向かう倨傲とも思える毅然とした姿に、不断に、なにものか得体のしれないものに挑む作家の気魄を感じる。

巨大な黒い塊が海に立ち、天空に高く聳える。これは一神教の世界に聳え立つバベルの塔というよりは、広大深淵な海から隆起した魔物のように見える。

わたしは十年をかけて批評した林芙美子の『浮雲』を思い出した。富岡兼吾を追って、当時、日本最南端の島・屋久島で病死した幸田ゆき子は、島に着く前、小さいはしけの中でしゃがみ込み、荷物の隙間から島を見る。

林芙美子はゆき子の眼差しに寄り添いながら次のように書いている「海上の向うに、魔物のようにうっそうとした、背の高い小さい島が見えた。ゆき子は眼を瞠り、しばらく、その島をじいっと眺めていた。無人の島のようだ。何もいないじゃないのと、心でつぶやきながら、ゆき子は、その黒い背の高い島に一種の圧迫を感じた」と。

瀬島氏は履歴によると広島県因島に生まれている。林芙美子大正11年尾道高等女学校を卒業すると、すぐに因島出身の岡野軍一を頼って上京、同棲している。何か因縁を感じないわけでもない。

浮雲』の主人公富岡はドストエフスキー『悪霊』の主人公ニコライ・スタヴローギンの虚無を彼なりに継承した、いわば和製スタヴローギンである。スタヴローギンは神に対峙し、神を試みるほどの倨傲のニヒリストであるが、富岡の虚無は神なき世界における虚無である。

瀬島氏の「塔」を眼前にすると日本的なるものと西洋的なるもの、〈自然と神〉という壮大なテーマが浮上してくる。氏が描き、現出させた〈巨大な黒い塊〉は、人間の内部に蓄積された灼熱のマグマを、世界を一瞬のうちに滅亡に導く核爆弾を彷彿とさせる。が、人類世界の壊滅を怪しく暗示しながら、同時に新生への期待も捨てきってはいない。

昨夜、わたしは動画で日本の女性ロックバンド「SHOW-YA」の「限界LOVERS」「私は嵐」など3時間ばかりぶっ通しで聴いていた。この迫力満点、魂激震のロックと瀬島氏の絵画がわたしのなかで融合した。

 

 

f:id:shimizumasashi:20190523140450j:plain

f:id:shimizumasashi:20190523140528j:plain

瀬島匠「塔」2019-5-23撮影