清水正  情念で綴る「江古田文学」クロニクル(連載5)

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これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。
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情念で綴る「江古田文学」クロニクル(連載5)

──または編集後記で回顧する第二次「江古田文学」(8号~28号)人間模様──

 清水正

 

 20号(平成3年6月)は清水正企画による「生誕170年・没後110年記念 特集 ドストエフスキー」を組んだ。
 編集後記を引用する。
 《■ドストエフスキーは一八二一年十月三十日(ロシア暦)に誕生、一八八一年一月二十八日午後八時三十八分に永眠している。従って本年一九九一年はドストエフスキーの生誕百七十年、死後百十年という記念すべき年に当る。この記念すべき年をひとつの節目として、本誌では百七十七頁にわたってドストエフスキー特集を組むことになった。

 ■本誌を一読するまでもなく、目次だけでも見ていただければ一目瞭然のように、執筆者の大半は日本大学芸術学部の現役の学生およびかつて学生であったひとたちである。『現代学生の読むドストエフスキーⅠ』は平成元年度の「文芸批評論」の課題レポートより、『現代学生の読むドストエフスキーⅡ』は昭和六十三年度の「文芸批評論」の課題レポートより選んだものである。また『現代学生の読むドストエフスキー』はゼミ雑誌「ドストエフスキー研究」(創刊一号は昭和五十七年に発行、その後毎年一号づつ発行しているが、最新号の九、十号にかぎり平成二年に同時発行)、同じくゼミ雑誌「僕たちにはゴールが見えない――『白痴』・『アンナ・カレーニナ』――」(昭和五十年発行)より選んだものである。

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  ■現在の日本でどれくらいドストエフスキーが読まれているのかつまびらかでないが、わたしが一年に読むドストエフスキーに関するレポートは百本近くあり、従ってここ十年の間にざっと千本ものレポートが書かれたわけである。おそらく日本でドストエフスキーが最も読まれているのは日本大学芸術学部であるかも知れない。ただし、学生時代に読んだ、あるいは読まされた“ドストエフスキー”が各自の内部でどのように成長発展しているかは残念ながら二、三の者を抜かして杳として知れない。

 ■本誌に掲載した学生諸君のドストエフスキーに関するレポート、評論は全体のほんのごく一部にしか過ぎないが、それでも現在日本の二十歳前後の青年(学生)たちがどのようにドストエフスキーを読んでいるのか、その現況の一端を披露することはできたと思う。

 ■現在、世界情勢は整理するつかの間も許さずめまぐるしく変動しつつある。ここ二、三年の大事件だけを取り上げてみても、中国天安門広場で多くの学生の血が流され、東西ベルリンの壁が崩れ、社会主義国ルーマニアの独裁者チャウシェスク大統領が処刑され、イラククウェート侵攻に始まる湾岸戦争の勃発と終結がある。まさに時代はドストエフスキーの予言性(この際、社会主義者は死の蟻塚を目指しているに過ぎないと語った地下男の社会主義批判、無制限の自由から出発しながら無制限の専制主義到達せざるを得なかった『悪霊』のシガリョフ理論、イヴァン・カラマーゾフの「大審問官の劇詩」等を熟読されたらいい)はますます立証化されつつあるというのに、一億総国民丸ごと平和ボケしてカラオケなんぞにうつつを抜かしているわが経済大国日本では未だ“ドストエフスキー”は社会の表層に浮上する気配さえ見えない。

 ■わたしたち日本人は当分の間、すでに宮沢賢治が今から六十七年も前に『注文の多い料理店』(大正十三年)で描いた二人の若者、その能天気で無反省で何でも金で解決できると思っている度しがたい成金主義者の「紙くづ」顔から脱することはできないらしい。

 ■本誌ドストエフスキー特集号のために、画家の小山田チカエさんには五十葉にも及ぶ、ドストエフスキー作品に材をとったカットをお寄せいただいた。長年ドストエフスキー文学を愛読、研究されてきた小山田さんならではの、どれもドストエフスキーにインスピレーションを得たすばらしいできばえの絵で本誌特集の頁を飾れたことに深く感謝しております。

 ■表紙絵は本誌十号から十四号までをご担当いただいておりました近藤承神子氏にお願いした。氏との出会いもドストエフスキーを介してであり、ドストエフスキー特集号ということで、急遽、無理を言って短期間のうちに完成させていただいた。記して感謝申し上げる次第です。》


 主なドストエフスキー論だけを紹介しておく。
 清水正「『悪霊』とその周辺」、中村文昭「カラマーゾフの沈黙」、上田薫「道楽者と夢想家――『弱い心』を読んで」、下原敏彦「三島事件ドストエフスキー」、横尾和博「『悪霊』の正体とは何か」、保坂昭「不良少年とキリストと安吾とアリョーシャ」、渡辺匡子「『罪と罰』と『眠狂四郎』」、赤見宙三「アントン君を探して」、新野雄彦「当然、スヴィドリガイロフの味方です」。