此経啓助・〈正空〉の意味は(連載4)  

清水正ドストエフスキー論全集』第10巻は3月末には刊行されます。

https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。

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新刊本の紹介
清水正ドストエフスキー論全集』第10巻(2018年3月25日発行 D文学研究会)の栞原稿を紹介します。今回は宗教考現学研究者・日大芸術学部講師の此経啓助氏の文章を数回にわたって紹介します。
マサシ外伝

此経啓助

〈正空〉の意味は
 
 
仏教の世界は「三千大千世界」というように、非常に広大だ。
時間的にも五六億七〇〇〇万年後に弥勒菩薩が現れるといわれ
るように、人間の尺度をはるかに超えている。
  「この仏教の時間・空間の尺度をもってしても、マサシのよ
うに〈有無即空〉から〈現象するあらゆるもの〉を〈空〉と考
えるのは少々強引ではないか」
 
そう疑義を呈したのが即禅師で、疑義は〈色即是空 空即是
色〉もまた〈色〉を〈現象するあらゆるもの〉と考えれば、マ
サシの〈有無即空〉と同じ意味になるが、では〈有無即色〉は
どこに消えてしまったのか、ということらしい。私がマサシ説
をソンタクすれば、仏教が一般に〈色〉とは形を有し、生成し、
変化する物質現象であると述べている以上、〈有無〉は〈色〉
を含んでより超大だ。むしろ、マサシが〈色〉の世界を自由自
在に行動する、とくに未来の量子コンピューターが0と1を掛
け合わせて計算する(0×1=0でなく、〈有無即空〉になる)
ようなマサシの光速度思考に、即禅師は少々苛立っているので
はないか。実際のところ、禅師が〈即〉を駆使しても、それは
現代のコンピューターが0と1を加算しているようなものなの
で、マサシになかなか追いつけない。
  「〈空空空〉など論理を超えて遊び心を覚える」
 
正空聖人は全国を遊行する聖(ひじり)らしくマサシをほめ
る。しかし、聖人がよく分からないのが文末の〈正空〉だ。自
身の戒名(出家者の名前)でもあるが、それは聖人が師の性空
上人から「〈空〉を悟った正統派たれ」の訓戒をこめて贈られ
た名で、仏教史上〈正空〉という独立した語はない、というの
が聖人の見解だ。即禅師もまた〈正即空〉が成立するかどうか
悩んでいるようだった。
 
私は、〈正空〉の意味を解くには「これは体感であるから、
体感した者にしかわからない」という先生の言葉がヒントだ、
とにらんでいる。つまり、〈正〉とは「体感した者」、マサシだ。
マサシの〈空〉、〈マサシ即空  空即マサシ〉、「ここに現象する
あらゆるもの」がマサシなのだ。マサシが「全世界、全宇宙、
全自然、今」なのだ。ブッダもまた「天上天下唯我独尊」と宣
言したが、ドストエフスキーも、宮沢賢治も、みなそう宣言し
ているのではないか。
(元日大芸術学部文芸学科教授・考現学研究家)