偶然か必然か── 伊藤 景(「ドストエフスキー曼陀羅」特別号より)

 

ドストエフスキー曼陀羅」特別号より紹介します。

 

偶然か必然か──
伊藤 景

 

清水先生と出会って、約十年になる。初めての出会いは、 高校三年生。受験時、面接の試験官が清水先生だった。もし かしたら、あの出会いによって、今に至るまでの道は決まっ たのかもしれないなんて思うこともある。
 
そして、清水先生に指導していただくようになって今年で 五年目になる。同様に、世界文学の大家であるドストエフス キーとの付き合いも、もう五年目だ。  学部時代は、ドストエフスキーには興味がなく、なんだか 長いし暗いし、いってることややこしいな、なんて文句たら たらだった。そんな四年間を過ごしたから、まさか自分がこ んなにもドストエフスキー作品を読むことになるとは思って もいなかった。「『罪と罰』にはロクな男が出てこない!」と か「世の中、ムイシュキンみたいな人ばかりだったら、私ももう少し優しい人になれたのに!  嫌な世の中だ!」なん て、文句たらたらなのは変わっていないが、文句の内容が変 わるなんて想定外だ。
 
院に入学すること自体、私の人生に起きた初めてのイレ ギュラーな出来事だった。それも、清水先生との出会いが あったからこその〝今ここ〟だ。大学四年生のときに、清水 先生や山下先生といった総勢七人で過ごしたインドネシアで の日々が、私の研究心を育んだ。「読書のリメイク」のタイ トルで、自分の考えていたことを発表し、幸いにも多くの人 に興味を持ってもらえた出来事は、忘れられない体験であ る。人にいうと驚かれるが、清水先生と今現在に続くような お付き合いができるようになったのは、様々な偶然が重なっ て行けたインドネシアがきっかけであり、学部時代は一年生のときに、ひっそりとマンガ論を受講していただけだった。
 
その後、清水先生に受け入れてもらえ、院に入ってから は、自分の研究とともにドストエフスキーを読み続ける 日々。先生に講義をしてもらうと、今まで面白くないと思っ ていた作品たちが途端に色を変えていく。
 
特に、私が感銘を受けたのは清水先生の『カラマーゾフの 兄弟』におけるイワン・カラマーゾフの分析だ。私はドスト エフスキー作品の登場人物の中で、今の所は、イワンが一番 のお気に入りでもある。苦悩するインテリが好きなのだ。
 
イワンは「神の存在は信じるが、神の創造した不条理に 満ちたこの世界を認めるわけにはいかない」(清水正「動物 で読み解く『罪と罰』の深層」『江古田文学』九十七号、江 古田文学会、二〇一八年)と考えながらも、苦渋の果てに 「事実にとどまる他はない」(清水正『ウラ読みドストエフス キー』清流出版、二〇〇六年)としてこの世界を肯定する。 清水先生はこの言葉をニーチェ永劫回帰における「世界の 全肯定者」(前掲同)としてのあり方と比較している。
 
どちらの考えも世界を肯定するものである。しかし、両者 で決定的に異なるのは、その受け入れ方である。私は、イワ ンの考えに考え抜き、認めたくないけれども認めざるを得な い〝不条理な必然〟に共感した。決定付けられ、それに反抗 することさえも決まっている不条理な世界に対しての怒りに 共感したのだ。
 
必然という言葉に出会ったとき、私は苦しかった。今ま で、自分で選択してきたと思っていたものは、既に決定付け られているのであれば、これからどうやって生きていけばい いのか。これまでの人生において、自ら選択したものなんて 存在しないのだろうか、生きるとはどういうことなのか、と 苦しんだ。
 
しかし、清水先生にイワンの言葉を講義してもらったと き、ようやく私は苦しみから抜け出すことができたのだ。全 てが必然として決定付けられていたとしても、私が納得して いれば、偶然や必然なんて小さな問題にすぎない。私が私と して生きていけばいいだけなのだ。偶然も必然も、生きてい く上では関係ないのだ。私は私としての誇りを持って生きて いけばよいのだと清水先生が教えてくれた。
(いとう・けい   日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程芸術専攻在籍)

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講演「『罪と罰』再読」2018-11-23

 

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清水正ドストエフスキー論執筆50周年記念  清水正先生大勤労感謝祭」での挨拶 日大芸術学部芸術資料館に於いて。2018-11-2

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清水正ドストエフスキー論全集第10巻が刊行された。
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