山下聖美「私の「D文学通信」時代」(連載3)


清水正への原稿・講演依頼は  ssdddmm@docomo.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」

https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。



清水正宮沢賢治論全集 第2巻』が刊行された。
清水正宮沢賢治論全集 第2巻』所収の「師弟不二 絆の波動」より山下聖美(日本近代現代文芸研究家・日本大学芸術学部教授)「私の「D文学通信」時代」を3回にわけて連載する。




気鋭の文芸研究家が水先案内する壮大豊穣な清水ワールド
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『100分de名著 宮沢賢治スペシャル 永久の未完成これ完成である』定価524円+税
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「私の「D文学通信」時代」(連載3)
山下聖美(日本近代現代文芸研究家・日本大学芸術学部教授)


 一方で私は、とにかく研究一筋であった。幸か不幸か、大学院後期課程の時期というのは、大学に行っても会う友人はほとんどおらず、研究しかすることはない。ティーチングアシスタント制度もなく、大学での人間関係は、指導教官以外、ほぼゼロ。趣味はない。海外にも行かない。学生時代の友人たちはみな入社数年目の多忙な時期である。大学に残っている私はおそらく「ひまな人」ぐらいにしか思われていなかったはずだ。しかし私自身は、休日も昼も夜もなく、やっと見つけた本当の「一本」を、ひたすらたぐりよせることを自らに課された最大の仕事として、誠心誠意を込めて打ち込んでいた。
 研究以外のことはどうでもよく、小遣いかせぎのアルバイトはさぼりまくって影でこっそり本を読んでいた。帰りには図書館かファストフードの店により、本を読んで原稿を書いた。もちろん、電車の中でも書いたしし、勢いがとまらないときは、降車後、駅のホームでも書き続けた。家に帰れば夜中まで書いた。オアシス・ポケット、シグマリオン、ジョルナダ・・・・数々の携帯用の原稿作成メディアを使いつぶしていった。
 こうして書いた原稿の数々は「D文学通信」に記録として残っている。今、これを読み返してみて、本当になつかしく感じるのと同時に、今の自分を少し恥ずかしく思う。大学に就職してからというもの、とくに近年、私はあのときと比べて堕落しているのではないか、と考える。そもそも体力がなくなってきたのか、夜中に書くことができない。大学の業務は増える一方で、複雑な(豊かではあるが)人間関係が広がり、頭を研究のスイッチに切り替えられないこともしばしばある。しかし、どんな状況になっても、あのときにやっと「つかんだ」と思った「一本の糸」を少なくとも離すことはしていない。
 幸いなことに、この糸は、もはや切れることはないと思うし、また、果てることがない感がある。私は、とてつもなく長く、大きなものへとつながる一本の糸をつかんでしまったようだ。「D文学通信」からはじまった私の糸は「文学」という豊穣なるものへとつながっている。この糸をひたむきにたぐりよせることこそが、その身を犠牲としても悔いはない私の仕事である。