小岩井杏奈はこの日、一人の舞踊家としてわたしの眼前に現れた。

2015年11月27日、金曜日は午後六時開演の日舞公演『五彩』(日本大学芸術学部演劇学科 平成27年度卒業制作)を江古田校舎北棟・中ホールで観た。個人作品「蕾の時」の岡崎こと美、「酔うて候‥‥」の山脇智子、「Speech」の佐伯侑美、「しろつばき」の小岩井杏奈の四人は昨年・平成26年度の「雑誌研究」の受講生、「心も届けます」の澤健太郎は今年度「雑誌研究」の受講生である。そんな縁もあって彼らの日舞公演にはかならず足を運ぶことにしている。そのつど、若い人たちの舞台にかける情熱をひしひしと感じて胸が熱くなる。先の公演から一年ほど経っている。日々の精進ぶりがよくわかる。


 今回、特に目を見張ったのが「しろつばき」を踊った小岩井杏奈である。前回は早急に熟した柿を思わせる仕上がりと同時に、いつ落下してもおかしくない危うさを感じさせた。卒業したら踊りはやめるなどと口にしていたので、そんなものかと思っていたが、今回の舞はいい意味で裏切られた。最初の立ち姿から目を引きつける妖しいオーラを放っていた。その姿は、遙か彼方のものをここに、といった切ないまでの毅然とした希求を感じた。ここ一年の間に、何か決定的な事件でも起こったのかと思わせる、前回とは比較にならない飛躍を感じた。立ち姿、歩く姿は、まるで暗黒舞踏を思わせる内的な深さをも感じさせた。遙かなるもの、永遠なるものを、内なる世界へと招き寄せる、その真摯な思いの中に透明な悲しみがにじみでている。

 パンフレットの「少女は老婆である 老婆は少女であり 生きることは死ぬことであり 死ぬことは生きることである わたしはしろつばきであり しろつばきはわたしである」という言葉もいい。死を内包した生、生を内包した死、彼女の舞は現実世界を生きる者の内なる矛盾葛藤を、永遠の命を獲得した〈しろつばき〉に昇華し、妖しいまでの輝きを放っていた。小岩井杏奈はこの日、一人の舞踊家としてわたしの眼前に現れた。


当日、日舞公演を観た「雑誌研究」受講の学生達。