清水正の『浮雲』放放浪(連載125)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

清水正の講義がユーチューブで見れます。是非ご覧ください。
https://youtu.be/KqOcdfu3ldI ドストエフスキーの『罪と罰
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp 『ドラえもん』とつげ義春の『チーコ』
https://youtu.be/s1FZuQ_1-v4 畑中純の魅力
https://www.youtube.com/watch?v=GdMbou5qjf4罪と罰』とペテルブルク(1)

https://www.youtube.com/watch?v=29HLtkMxsuU 『罪と罰』とペテルブルク(2)
清水正『世界文学の中のドラえもん』『日野日出志を読む』清水正への原稿・講演依頼は  http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

デヴィ夫人のブログで取り上げられています。ぜひご覧ください。
http://ameblo.jp/dewisukarno/entry-12055568875.html

清水正研究室」のブログで林芙美子の作品批評に関しては[林芙美子の文学(連載170)林芙美子の『浮雲』について(168)]までを発表してあるが、その後に執筆したものを「清水正の『浮雲』放浪記」として本ブログで連載することにした。〈放浪記〉としたことでかなり自由に書けることがいいと思っている。



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 清水正の『浮雲』放浪記(連載125)
  

平成◎年2月28日
おしなべて富岡は劇的な時空を生きることはできない。設定としては加野久次郎による刀による切りつけ事件、富岡に原因すると言っていい向井によるおせい殺人事件があるが、作者はその劇的な場面にリアルタイムでカメラを持ち込むことはなかった。富岡は事件の第一原因者でありながら、いつも劇的時空の外側へと置かれている。富岡がこの劇の渦中へと踏み込んでいくためには、富岡は自らの内部世界への深淵へと限りなく降下していかなければならない。が、富岡にとっての山林が調査研究や林業の対象となっていたと同様に、彼は山林の迷宮へと拉致されていくようなタイプの人間ではなかった。富岡はいわば科学者、植物学者の客観的な醒めた眼差しで山林の植物を、世間を生きる人間を見ている。
富岡は妻の邦子に対しても、安南人のニウに対しても、そしてゆき子に対しても、肉体関係は結んでも、それ以上の関係性を持とうとはしない。富岡が女に求めているのは性愛的関係であって、それはアガペーとしての精神的、崇高な愛ではない。富岡が〈果実の思い出〉で記す〈バナナ〉や〈マンゴスチーン〉〈ドウリアン〉などは男根や女陰の形状、臭い、感触をまざまざと想起させるが、それらが崇高な次元へと昇華されることはない。それらは触りたい、食べたい、嗅ぎたいという、性愛的欲望を刺激する〈果実〉の域を超えることはない。富岡には〈果実〉に対する倫理的規制はない。富岡は〈マンゴスチーン〉も好きだし〈ドウリアン〉も好きなのだ。富岡にとって「わたしだけを食べて」という〈果実〉は厄介なだけなのである。強いて言えば、富岡の特徴は、すでに腐れかけて、甘みのなくなった〈果実〉を情け容赦なく捨て去ることができなかった点にある。これは富岡の〈誠実〉とか〈優しさ〉と言うよりは、彼の優柔不断を示している。