うちには魔女がいる(連載7)


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矢代羽衣子さんの『うちには魔女がいる』は平成二十六年度日本大学芸術学部奨励賞を受賞した文芸学科の卒業制作作品です。多くの方々に読んでいただきたいと思います。



矢代羽衣子

うちには魔女がいる(連載7) 


 狐の嫁入り



魔女の教育の賜物で「きらいな食べ物は?」と聞かれれば胸を張ってほとんどない、と答えることができるが、逆に「すきな食べ物は?」と聞かれると悩んでしまう。カレーもコロッケも餃子もみんな好きだ。大体魔女の作ったというだけで、大抵は私が好きなものである。
けれども魔女が作るたくさんの好物の、その中でも、おいなりさんが私にとって特別な存在であることは間違いない。


空は気持ち良く晴れているのに、急に雨が降ってきた。狐の嫁入りだ。今日は一体どこの狐のお嬢さんがお嫁に行くのだろう。
そのうすらきれいでちぐはぐな光景をぼんやり眺めていたら、唐突においなりさんが食べたくなった。
あまじょっぱいタレがよく染み込んだ油揚げと、ふんわり柔らかい酢飯がとても恋しい。そうなったらいても経ってもいられなくなって、急いで家に帰って魔女に泣きついた。
「おいなりさん食べたい!」
やけに切羽詰まった様子でねだる私に、夕飯の用意をしていた魔女は面食らいながらも、きっぱりと言い切った。
「今日は無理」
当たり前だ。いきなりおいなりさんが食べたいと言われてすぐに作れるだけの準備がある家のほうが少ない。当たり前なのだが、それはあくまで理屈の話である。すっかりお口がおいなりさんになってしまっていた私は、しょんぼりと肩を落としたのだった。

翌日、二階の自室で漫画を読んでいたら、ほのかに良い匂いが漂ってきて鼻がぴくんっと動いた。この香ばしくて甘い匂いは。
「おいなりさん作るのッ?」
慌てて階段を下りてキッチンに飛びこむと、魔女のまんまるに見開かれた瞳と目があった。その手元には、赤い鍋の中でくつくつと音を立てている、ツユに浸かってしんなりとした油揚げ。思わずガッツポーズを作った。
「なんでおいなりさん作ってるって分かったの?」
「匂いしたもん」
「やだぁ、犬みたい」

煮汁がなくなるまで煮てしっかり冷ました油揚げに、魔女が流れるような手つきで酢飯を詰めていく。ふっくらと太ったおいなりさんが、ちょこんとお行儀良くお皿に乗っている様は妙に可愛らしかった。その丸っこいふくよかなフォルムが愛おしい。
数個できあがった所で我慢ができなくなって、ひょいと摘まんで一口で食べてしまう。小振りとはいえ全て口に入れるのには少々大き目のおいなりさんを、次から次へと飲むように食べていたら大層魔女に気持ち悪がられた。好きなんだから仕方ないじゃないか。

今度のお狐さんの嫁入りは一体いつになるだろう。新しいおいなりさんを口に放り込みながら、晴れた空の冷たい雨のことを考える。
次のお嬢さんがお嫁に行く時も、おいなりさんを作ってもらおう。にんまり笑って私はまた新しいおいなりさんに手を伸ばしたのだった。



※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。