星エリナのほろよいハイボール(連載125)

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星エリナのほろよいハイボール(連載125)


寂しくないは嘘になる
星エリナ


 高校一年生になって一ヶ月したころ。私は家の近くのスーパーではじめてアルバイトの面接をしたもらった。高校は私服だったから制服じゃなくてもいいか、と思って普段着のパーカーで行ったところ、落とされた。その次に受けたときは従姉妹の制服を着ていった。
「あれ、きみの高校って私服じゃないの?」
「前回私服で落ちたので……」
 面接をしてくれた店長に笑われた。このお店こそ私がはじめてアルバイトしたファミリーレストランだった。それから高校生のころはいろんなアルバイトを経験した。楽しかった日もあったし、男子大学生に憧れを持っていたときもあった。いやな思いをした日もあったし、かつてないくらい怒ったときもあった。いろんな思い出があった。
 そして大学一年生の冬。地元のしゃぶしゃぶ屋さんでアルバイトをはじめた。最初は緊張してばっかりで、大学生ばかりの職場に落ち着けなかった。だけど次第に楽しくなってきた。それは同期の同い年組がすごく仲良かったからだと思う。それから同い年の人が増えて、パートの主婦さんたちとも仲良くなって。アルバイトが楽しくなっていった。もちろんいやなこともあったけど、みんなが仲間で、優しかったから、辞めずにいたんだと思う。
 アルバイト仲間とどこかに遊びに行ったりするようなことが今までなかったから、誘われたときはちょっとびっくりした。飲み会に行って、ディズニーランドに行って、深夜にまた飲み会して。若いノリだな(笑)とか自分で思いながらも、すっごく楽しくて。アルバイトは次第に辛いことがなくなってきた。働くことが楽しい。常連のお客様に会えるのが嬉しい。アルバイト仲間に会えることが嬉しい。
 それと、なによりも嬉しかったのは、誉められること。家でも、学校でも、大学生になってからは「できる」ことが普通で何か頑張っても誉められることはなくなってきた。だけど、主婦さんたちはいっつも私を誉めてくれた。
 仕事が丁寧だね。やることが早いね。手先が器用だね。頭が柔らかいね。
 いっつもいっつも誉めてくれる主婦さんたちが、本当のお母さんみたいで大好きだった。ランチタイムは主婦さんたちに会えるから嬉しかった。
 だけど、こんなに大好きなアルバイトを辞める日がきた。同じ日に辞める友だちは、何度も泣いていて、主婦さんも泣いていて、すごく悲しかった。それなのに、私は泣けなかった。悲しいし、もっとみんなと一緒にいたいと思ってる。だけど、涙が出なかった。たぶん、辞めるっていう実感がわかなかったから。明日も朝起きていつもどおり支度して、出勤するんじゃないかって。寂しいのがわからなかったの。変だね、三年間も一緒にいたのにね、明日から会えなくなるなんてね。
 先日、辞める4年生たちと仲良しだった1つ年下のみんなで飲み会をした。深夜の飲み会。これが最後かなって思いながら。みんなで居酒屋に入ると、なんと成人済みのクルーがたっくさんいた。「お疲れ様 ありがとう」と書かれた紙を持って待ち構えていた。それから一人ひとりに花束とメッセージが書かれた色紙をくれた。そこにはそれぞれとの思い出が書いてあって、1つ1つ読んで寂しくなって、私はわーわー泣いた。人前で泣いたのなんて久しぶり。嬉しくて嬉しくて、しょうがなかった。
 後輩が抱きついてきて、一緒に泣いた。「いやです。寂しいです。辞めないでください」なんて酔っ払ってるから大きな声で泣きながら言われた。
「もー、なに泣いてんのー」
 私も泣いてるんだけど、いっぱい笑った。
「寂しくないよ。また会いに行くよ。しゃぶしゃぶ食べに行くよ」
 朝方帰ってすぐに寝た私。起きると横には花束と色紙。昨日の夜の幸せは本物だったんだな。
 ごめんねみんな。嘘ついたね。本当はすっごく、寂しいよ。




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