どうでもいいのだ──赤塚不二夫から立川談志まで──(連載25)




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どうでもいいのだ
──赤塚不二夫から立川談志まで──(連載25)
まずは赤塚不二夫・対談集『これでいいのだ』から

清水正


談志の独り言ーー談志と赤塚不二夫ーー

 

 談志が調子に乗ってしゃべり続けていると赤塚不二夫は寝てしまう。まさかほんとに眠っているわけではなかろうが、赤塚は談志が〈独り言〉を始めるや否や、おまえさんはおれを不在の他者にしているんだよ、ということを寝ることで明確に示す。露骨に寝られてしまえば、談志も独り言から醒めざるを得ない。
 談志の自意識過剰のおしゃべりと赤塚の沈黙による応酬は、読んでいて実に面白い。談志の弟子の志らくは、談志を新幹線にたとえているが、まさに談志は赤塚を前にして一人新幹線状態に入っている。が、ここで注意しなければいけないことは、赤塚はその談志の新幹線に乗っているということだ。談志が新幹線で赤塚は鈍行列車というわけではない。むしろ赤塚は寝た振りをして夢の超特急にひとり乗り込んでいたとさえ言える。談志の明晰な論展開を赤塚が理解していないなどと思ったら大間違いなのである。
 赤塚は談志新幹線が到着するであろう駅のベンチで待ちくたびれて、ついうっかり寝てしまったというのが真相である。ここを間違えるととんでもないことになる。談志は世界で一番自分が頭がいいと思っているような人間だから、とうぜん落語界ではもちろんのこと、赤塚を前にしても自分が一番と思っていただろう。
 赤塚は談志と同じような論理展開上の言葉を持ち合わせていない。だから対談を読んでいると一見談志の方が明晰だし頭がいいように思える。赤塚は談志の発する言葉の球にいちいち反応しない。談志が様々な球種を投げ続けても、赤塚は一度もその球を打たない。
 そもそも赤塚はバツターボックスに立っていない。談志という天才ピッチャーは打者などいなくても球を投げる。自分の球を打てる打者は存在しないと思っているから、味方の守備もいらない。マウンドにはピッチャー談志がただ一人、陶酔状態で球を投げ続けている。
 このピッチャー、観客のただ一人拍手してくれなくても関係ない。なにしろ談志は、おれのこのすばらしい投法を理解できるやつなどいやしない、と思っているのだから。が、これは少し言い過ぎた。談志といえどもそれほどうぬぼれているわけではない。現に赤塚が寝ていることに気づく。
 寝ていることは理解していないことではない。赤塚は、談志の新幹線一人おしゃべりに覚醒している必要がない、という思いに素直に従ったままである。






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