畑中純の『まんだら屋の良太』をここ二週間ほど毎日読んでいる。何しろ全53冊の大作であるから、なかなか読み切れない。一話一話が濃縮だから、時間をかけて味わいながら読む。この作品はまさに文学、それも痩せ細の純文学風ではなく、スケールの大きな聖俗取り混ぜた漫画作品である。温泉文化の日本に誕生した、癒しとエロスと人情にあふれた痛快で抒情味たっぷりの漫画で、おおらかで深みがある。これほど一話一話が充実している漫画も珍しい。畑中純がこの作品に込めた情熱をひしひしと感じる。
畑中純 清水正 畑中眞由美さん(畑中純夫人)
畑中純と最初にあったのは原孝夫主催の納涼祭(2007年8月4日)においてであった。畑中純(1950年3月20日 - 2012年6月13日)は宮沢賢治作品の版画でも知られており、会う前から親しみを感じていた。これから、漫画や文学についていろいろ話せる機会もあるかとのんびりかまえていたら、62歳の若さで逝ってしまった。畑中純を失った日本漫画界の損失は計り知れない。『まんだら屋の良太』はもとより、畑中純の諸作品は今後、しっかりと評価しなければならないと思っている。わたしは畑中純を同じ時代を生き、創作活動を通して戦い続けてきた同志と思っている。彼の作品にはわたしの好きな今村昌平映画の庶民感覚や母性に対する共通性が充溢している。まずは畑中純作品の再評価活動にとりかかりたいと思っている。