星エリナのほろよいハイボール(連載109)

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星エリナのほろよいハイボール(連載109)

匂いを懐かしむ
星エリナ

 
 私の部屋はお世辞にもきれいとは言えない。物に溢れていて片付けられない。そもそもこんなに汚い理由は捨てられない性格がいけないのだ、と思った。だから先日は勢いに任せて思い出を捨てていくことにした。まずはキーホルダー。キーホルダーってみんなもそうだと思うんだけど、捨てられない。いろんな人からお土産でもらうし、中学生のころは修学旅行先で自分用に買ったりもしたものだ。そういうキーホルダーなんだけど、なかなかつけるところがない。何かにつけようと思うけれどなかなかつけない。だってカバンにキーホルダーなんてそれも中学、高校まででしょ? そんなキーホルダーたちをケースに入れて保管していたんだけど、それも思い切って捨てた。……嘘。全部は捨てられなかった。新品まであるんだもん。もったいないじゃない。もったいない精神は素晴らしいって海外からも言われているんだから。
 部屋をよーく見るともったいない精神の塊なんだってことに気付く。思えばこのアクセサリーもこのカラーペンも、中学のころから使っているものばかり。物持ちが良い? いやいや、どケチ根性かも。書けなくなったり、無くなれば捨てるんだけど、残っているものって捨てられないの。
 そのうちの一つ、香水が出てきた。これも中学生のころに使っていた安物の香水だ。ガラスの正方形の容器は当時オトナっぽくて気に入っていたものだ。でもキャップがプラスチックで、やっぱり安物って思った。たぶん3000円くらい。香水ってほぼ毎日使ってたけど、なくならないものの代表だと思う。途中で使うことに飽きたのか、約半分残ってる。懐かしんでよく見ていたら、あることに気がついた。当時、この香水って、液体が薄いピンク色じゃなかったっけ。完璧に無色透明な液体になっている。もしかして、なかで何か化学反応起きちゃってる? やばいかな?
 シュッ
 一吹き、部屋に撒いてみる。おそるおそる匂いを嗅ぐ。
「あ、懐かしい……」
 匂いは変わっていなかった。最初はちょっとフルーティーな香り。甘ったるい匂いは苦手だったから、さっぱり系だ。ベースはサンダルウッドやムスクだからちょっと落ち着くような穏やかな香り。ミドルは何だか忘れた。
 そっと手首に吹いて、擦り合わせてよく嗅いでみる。中学の教室を思い出した。特に中学三年生なんて、男の子も香水に手を出すから、教室はみんなのいろんな香水でごっちゃごちゃ。女の子の制汗スプレーの匂いも混ざり合って汗の匂いなんて気にならないくらい臭かった。ちょっとやんちゃしてる子たちのスクールバックにはいつも持っていちゃいけない携帯電話やスプレーと香水の瓶が必ず入っていた。私も別にやんちゃしてたわけではないんだけど、スプレーは持っていた。それはちょっとした女子のたしなみだったから。
 そんなことを思いながら掃除を続ける。今の私の部屋はアロマやらお香、ボディクリームやフレグランスミストが置いてある。ラズベリーのアロマの後にムスクのお香を焚いちゃったりもする。あれ、もしかしたらこの部屋は、あの頃と何にも変わっていないのかもしれない。


 

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