星エリナのほろよいハイボール(連載96)

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星エリナのほろよいハイボール(連載96)

四年前を思い出す
星エリナ



 
 7月のオープンキャンパスで、私は学生相談を担当した。芸術学部、文芸学科を志望する高校生やその保護者の方に、学生生活、授業、サークルなどについてお話をした。なかには、一人暮らしに対する不安や、アルバイトとサークル、学業を両立できるか、など具体的な質問もあった。なかでも多かったのは「先輩はどうして日芸に入ったんですか?」という質問。大学四年生になってから、高校三年生のころのことを思い出した。
 簡単に説明すると、小学三年生でアガサ・クリスティー探偵名作集を読破した私は次第に自分でもストーリーを考えるようになった。最初は探偵っぽい話を、ほとんどセリフだけで書き上げた。ノート5冊分は書いた。それから中学、高校、と文章を書き、高校生のころは地方文芸誌に三年連続で掲載された。高校では文章といえば「星さん」のような存在になり、レポートの添削などを友だちにお願いされたこともある。次第に高校のなかで評価されるだけではつまらないと思い、もっと文章力の高い人たちのなかで頑張りたいと思った。とはいえ、自分のなかで誇れるものが、これしかなかったというのも事実だ。
 普通の文学部じゃダメなのか、と先生は母からは言われていた。だけど、文学には興味ないのだ。他人が書いたものには興味がない。自分の文章力を磨くために小説を読み、難しい表現や言い回しを学ぶことは好きだが、作者がどういう意図でこの文章を書いたのか、などは全く興味がなかった。だから文芸学科。自分が書きたかったから。
 
 オープンキャンパスを終え、いろいろと思い出した。保護者の方と一緒に来ていた高校生を見て、そういえば母からはかなり反対されていたなあ、と思いだしたり、まさか自分が編集に携わるとは思っていなかったなーとか思ったり。
「お母さんから反対されていて、折れそうになったりしましたか?」
 確かに折れそうだった。正直、塾の先生方からも反対されていて、私の日芸受験を応援していたのは高校の国語の先生くらいだったからだ。数学が大好きだった私は塾の先生に数学の勉強をやめろと言われて意味もなく泣いて帰ったこともあった。その日はご飯も食べずになぜか数学を勉強し続けた。
 オープンキャンパスではその質問には「どうしても日芸に入りたいという意地で頑張った」と答えた。でも本当は折れそうに何度もなっていた。
 四年前、高校三年生の夏。私は塾の夏季講習に通わされた。その夏季講習はすごく力を入れていて、5日間朝8時から夜7時まで渋谷の大学のキャンパスを借りて、所謂缶詰状態で勉強した。正直勉強は好きではなかったので何度も何度も逃げ出そうと考えていた。だけど逃げ出せなかったのは、その夏季講習5日間のために払っている金額を知っていたからだ。根本的に私はとてもケチだから、あのお金を捨てることになるのか、と考えるとどうしても早朝に起きて頑張って通った。
 だが、そのおかげで私は運命的な出会いをした、と思っている。あの頃の私にとってはそれくらいキラキラした出会いだったのだ。

 

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