小林リズムの紙のむだづかい(連載512)



清水正ドストエフスキー論全集』第七巻。2014年7月31日刊行。D文学研究会発行・星雲社発売。A五判上製585頁。定価7000円+税



清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

清水正『世界文学の中のドラえもん』『日野日出志を読む』は電子書籍イーブックジャパンで読むことができます。ここをクリックしてください。http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

小林リズムの紙のむだづかい(連載512)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。


清水正の著作はここをクリックしてください。

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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。
小林リズムさんがエッセイ本をリンダパブリッシャーズ(http://lindapublishers.com/archives/publications/dokonidemoiru)から刊行することになりました。本のタイトルは『どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった八日で辞めた話』発売日四月五日。
http://lindapublishers.com/archives/publications/dokonidemoiru
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小林リズムの紙のむだづかい(連載512)




【夢見るフリーター生活を振り返る10】

 


◆アイドルにはなれない

 護国寺駅を降りてグーグルマップを頼りにオーディション会場へ向かった。6月にして快晴。やたらと暑い。緊張して手汗はびっしょりだし、汗をかいた額に前髪がはりついている。できるだけ痩せてみせようと選んだ黒のレースワンピが身体にまとわりつく。ドキドキとうるさい心拍数を無視しようと夜ご飯のこととか昨日みた夢とか、どうでもいいことを考えた。

 手には大きな紙袋を持っていた。なかには画用紙とマジック、それからこれまで書いてきた文章をプリントアウトしたファイルを3冊入れていた。(のちに、このファイルを持って某出版社に企画出版を掛け合うも、あっさりと振られた)。

 二次審査のオーディションでは、写真撮影と動画撮影があると聞いていた。書いてあった書類によると2714人のうちの100人が一次選考に通過したらしい。通過の書類がきたときは「え!うそ…!信じられない…!」……なんてことは思わず、「まあ、通るよね」とくらいに思っていた。何もかも失った私として見れば、これ以上何かを失うなんてことはないように思えたし、外見重視のオーディションならまだしも「個性的な人」を求めるアイドルオーディションである。自己PRの書類と簡単な写真だけで評価される場所で、通過しないわけがないと思った。
 
 そんなふうにして通知を受け取ったときにはそう思って余裕さえある気でいたのに、いざ会場を前にすると怖さのあまり震えた。正直、受かるとか落ちるとかどうでもよかった。もう、「受かりたい」と思う意思すらなくて、そのとき私が感じていたのはただただ「逃げたい」。この一言に尽きた。自分を貶める可能性のあるもの、傷つけようとするもの、そういったものすべてから背を向けて逃亡したい。常々そうやって私はせっかくのチャンスをいくつも無駄にしてきたと思う。でもそのときは無駄にしていたことになんてまったく気づいていなかった。私は、会場へ入って警備員の人に受付状をもらうと「すみません、ちょっと電話してきます…」と背を向けて外へ出て、
気づくと護国寺の電車の駅のホームへと戻ってきていた。
「電話をして急用ができたって話して断ろう。それともバックレてしまおうか……」
「でも、私のせいで落ちた人もいるんだよね」
「だけど、そんなの関係ない。逃げたい」
「でも、逃げたら後悔しない?」
「後悔しない」
「本当に?」
「後悔…は、ちょっとするかも」
 押し寄せてくる感情の波にあっぷあっぷしながら、私はどうするべきか悩んでいた。予定の時間はもう20分も過ぎてしまった。
 私はいつでも自分の選択を間違っていたなんて思っていなくて、それはブラック企業を選んだときも、そしてその会社がヤバいと知ったときも、それからすぐに会社を辞めたときも同じだった。だから、もしかしたら何度も機会を逃し続けたのだと思う。そして傷つくことはなかったけれど、得たものも何もなかった。私は何かを得ることなく、傷つかない道を選んできたのだ。そう思ったとき、スマホの着信音が鳴った。
「……もしもし」
「あ、小林さんですか? 今日はオーディションの予定だったと思うのですが……」
 さあ、どうしよう。決断しなければいけない。そう思ったら、強い感情が押し寄せてきた。何やってるんだろう、いまさら逃げようとなんかして。だいたい、これ以上失うものなんて何もないって自分で言ってたじゃん。みじめになるくらいなんなの。先のことは、当たって砕けてから考えればいい。
「……すみません、ちょっと電車を乗り間違えてしまって……あと10分くらいで着きます!」
 電話口に叫んで駅員さんに事情を話し、再び改札を出た。




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