ユッキーの紙ごはん(連載58)

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ユッキーの紙ごはん(連載58)


【うろおぼえの恋愛小説】

ユッキー
 
 ボーイズラブが苦手だ。

 ※ボーイズラブ… 日本における男性 (少年) 同士の同性愛を題材とした小説や漫画などのジャンルのこと。書き手も読み手も主として異性愛女性によって担われている。BLと略されることもある。(Wikipediaより)

 高校生の頃、「小説家になりたい」 という思いが膨らみ、自分の小説を公開したいと血迷ったことがある。そしてインターネット上にサイトを作って掲載するという手段を知り、これだ!と思いつきサイトを作る方法を勉強するべくインターネットの海をあっちこっちへと巡った。

 そのなかで、偶然ボーイズラブ小説と出会うことが多々あった。そういった知識がなかったのもあり、正直、とても嫌だった。どうしてわざわざ男同士の恋愛小説などを書くのか理解に苦しんだ。

 あるときも、「モラトリアムにいる人間を書いています」 との紹介文に惹かれてそのサイトに飛ぶと、ボーイズラブ小説のサイトだった。

 気付かずに一つの小説を読み始めると、男性と思われる人の独白から始まった。
 そのサイトを見返すことは二度となかったのに、割合はっきりとその文章を思い出すことができる。

「人生の意味だとか生きる意味だとかそんなものはない。そんなものは思春期特有の自意識過剰やセンチメンタリズムでしかない。そんなものが何の価値を持つ。現実は即物的で、生に対するスタンスなんて必要ない。これっぽっちも。意味なんかなくていいじゃないか。惰性で生きることの何がいけない。ばかだなあ。」

 というような内容だった。ところどころ文字が大きくなったり同じ文の繰り返しがあったりして、強調が目立ち印象に残る文章だった。
 そして次ページにいくと、男性同士のメールのやりとりと思われる文章に変わった。

 一人の男は敬語で、もう一人の相手は乱暴な言葉遣い。年齢の差を感じさせた。年下と思われるほうの男は、「死にたいから薬をください」 「一緒に死にましょう」 とメールを送る。「俺はあなたを愛してるから一緒に死にたい」 と。「俺は根っからのゲイで子孫を残せない。それって生物的に終わってる。遺伝子レベルでゴミなんですよ」 、だから 「死にたい」 。

 2人は単なるメール友達でしかなく、互いの素性を知らない。けれどゲイの男は 「そんなものはただの情報で、大切なのは中身なんだから関係ないでしょ。愛しています」 という。

 また次のページにいくと、ある高校に通う男子生徒が首を吊って自殺したというニュースが、語り手の男の耳に入る。
 彼には、年下のあの男が死ぬ直前に送ったメールが届いていた。「生きる意味も目的も見つけられない。俺は惰性でなんか生きたくない。卑しくあざとくないと生き残れない世の中なら、俺はあえて自ら淘汰されようと思います。うざいメールにも返事をしてくれて嬉しかったです。いつかあの世で会いましょう。愛しています」 という内容。

 そして男は、冒頭の言葉を繰り返す。

「人生の意味だとか生きる意味だとかそんなものはない。そんなものは思春期特有の自意識過剰やセンチメンタリズムでしかない。そんなものが何の価値を持つ。現実は即物的で、生に対するスタンスなんて必要ない。これっぽっちも。意味なんかなくていいじゃないか。惰性で生きることの何がいけない。ばかだなあ。」

 男は独白を続ける。

「惰性でいいじゃないか。子供なんてつくれなくたって。何も成さずとも。なんで駄目なんだ。いいじゃないか、酔生夢死で。」

 ボーイズラブの何を見ても、この小説を思い出す。ボーイズラブなど見なくても、ふとしたときにこの小説を思い出す。

 惰性でなんか生きたくないからあえて淘汰される。惰性で生きることの何がいけない。
 この小説を思い出すと、2人の男の言葉がぐるぐると脳内を回り、救われるような、逆に責められているような、不可解な気持ちになる。生きていく中でいちばん見てみぬふりをしている心の部分をつつかれている気分になる。

 どうしても、ボーイズラブが苦手だ。


 

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