ユッキーの紙ごはん(連載57)

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ユッキーの紙ごはん(連載57)


【架空裁判官】

ユッキー
 
 高校時代に仲が良かった友人達とは、今でも定期的に集まる。
 私を入れて6人。私を含めまだ学生をやっている人間もいれば、もう働いている友人、更に地元を離れてしまっている友人もいるので、いつも全員集まるわけではない。それでも年に2回ほどは集まろうと言い合える関係を、心底嬉しく思う。

 去年の夏休みだったか、やはり友人達と集まった。そのうちの一人が、随分と外見に変化を遂げていた。ばっさりと髪は短くなり、明るくなった髪色は夏の日差しに眩しく光った。
 そして涼しげに晒された首に、真っ赤な痕。ファミレスでおしゃべりし始めてしばらくして、誰かが彼女に恐る恐る尋ねた。「首のところ、もしかして……?」

「うん。最近付き合い始めたんだ。昨日も会ってたの。もう、独占欲すごい人でさ、キスマーク付けたがるの」

 心から幸せそうに笑う彼女を、私は本当に羨ましいと思った。
 幸せな恋愛をしていることに対する羨ましさももちろんあるが、それ以上に、「自分の現状の幸福を何の偽りもなく他人に話せる素直さ」 は私にはない魅力だと思ったからだ。

 今が幸せでも、もしかしたら、来月にはあっさりと心変わりされて振られてしまうかもしれない。
 今が幸せでも、もしかしたら、彼には実は本命の相手がいて私は浮気相手かもしれない。
 今が幸せでも、もしかしたら……。

 今現在、自分がしている選択が、本当は 「正しくなかった」 ときのことを考えると、私は 「今現在の自分」 の全てを他人に素直に晒せない。

 私がした選択が 「間違っていた」 ことを、他人に知られたくない。

 就職活動をし、内定を2社から貰った。1つは中小企業、もう1つは有名企業の子会社。どちらを選ぶべきかを迷った。
 第一志望は後者だったのだから、それも会社のブランドだけでなく事業内容や社風に惹かれての第一志望なのだから、選ぶべきは決まっていたのに、心のどこかで、就職してから「有名企業の名前に飛びついて失敗してしまった人間」に万が一なってしまったら?ということを恐れていた。

 恋人に付けられたキスマークを堂々と惚気ていた友人は、結局交際2ヶ月ほどでその彼と破局した。
 私も、きっと他の友人達も、「彼と付き合う」 という彼女のしていた選択が間違っていたと見下しなどしないのに、なぜ私は自分のした選択が他人に裁かれることを恐れるのだろう。

 くだらない見栄を、誰に対して張っているのだろう。
 自分の中でいもしない敵を創り上げ、「正しい」 「間違っている」 というよくわからない基準で自身を値踏みしてしまうたび、去年の夏に友人が見せた満面の笑みが頭をよぎる。


 

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