星エリナのほろよいハイボール(連載92)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。

七月二十六日午後三時より六時まで日芸江古田校舎西棟三階 W-301教室にてD文学研究会主催の第一回講演会(講師・清水正)を開きます。ドストエフスキーに関心のある方は是非ご参加ください。参加費は無料。お問い合わせはqqh576zd@salsa.ocn.ne.jpにお願いします。



ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp


清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。


星エリナのほろよいハイボール(連載92)

免許を更新する
星エリナ

 
 鴻巣。埼玉県民は大抵この漢字を読めるらしい。これは地名だ。埼玉県民は免許をとるために必ずこの場所へ行く。読み方は「こうのす」。とても行きにくいところにある。例えば大宮とか所沢とか、埼玉県にも有名な場所はあるのに、なぜ鴻巣に免許センターがあるのだろうか。別にどこに免許センターがあってもいいのだけれど、埼玉県民は結構面倒くさいと思っている。行きにくいったらない。免許センターということは、まだ免許を持っていない人たちが試験を受けに行くことがある。車の運転ができない彼らはもちろん公共の交通機関を利用する人が多い。が、電車は高崎線しか通っていない。新宿、大宮を通って群馬県まで行く電車だ。東武東上線八高線とは並行しているので、大宮まで行ってから鴻巣へ行くかなりの迂回ルートになってしまう。そのため、東武登場線川越駅から鴻巣までを結ぶバスが運行している。しかし、これも一時間に一本程度でかなり時間もかかるし、川越の城下を通るので渋滞により時間通りにバスが来ることはない。車を運転できない人間には辛い場所なのだ。
 とはいえ、私は免許を持っている。そして、免許を取得して三年、更新のお知らせが届いた。そうか、もう三年もしたのか、としみじみ思う。免許を取ったのは大学一年生のときだ。やっぱりその時期はみんな取得したがる時期のようで、教習所には中学の同級生がたくさんいた。軽い同窓会みたいだ。それどころか、一緒に座学を受けるので、ちょっと中学に戻ったような気分にもなった。
 夏休みを使って私は教習所に通い詰めた。教官との相性も良かったためか、かなりスムーズに進み、二ヶ月で免許を取得した。学科試験も実技試験も特につまづくことなく終わった。あれから三年、遠くまで運転して行ったことはなく、ほとんどが家から駅までの送迎。最近は20分ほどかけてショッピングモールへ行くこともある。でもそれだけ。
 そんな私が鴻巣まで免許を更新しに行った。鴻巣まで、約一時間。遠い。はじめてこんなに運転した。しかもその日は桶川市のお祭りがあって、一部交通規制あり。ちょうど私が通る道が渋滞していた。ちなみにお祭りがあることは知らなかった。なんとかたどり着いた免許センター。初回更新なので120分の講習を受ける。この日は違反者も同じ講習を受けていた。この講習では携帯電話をいじったり居眠りしたりを繰り返すと夕方の補講を受けなければいけない。そうしないと免許を受け取れない。だから眠たいのを我慢して必死に起きている。終われば新しい免許を受け取り解散となるのだ。
 最後に10分間のビデオを見て終わりだ、と教官が言った。ほとんどの人が帰り支度をはじめる。私はぼーっとビデオを眺めていた。事故で亡くなった少女の父親のインタビューだった。ふと、斜め前のおばさんが動く。タブレットで何かを見ているようだった。なんだろう、メール画面だ。仕事かな。と、タブレットを覗き込む私。するとヌッと教官が現れる。
「やめようよー、こういうこと。あとちょっとじゃん」
 やめるように促す教官に対して、おばさんは「え、もう終わりじゃないんですか?」と返す。なんという返し。まだビデオ流れてるんだから、終わりなわけがない。先生に対して口答えする学生のようだ。
「事故起こさなきゃいいけどねえー」
 去り際に教官が言った。確かに、おばさんの事故や違反率は高い。事故起こさないでよねー、と思いながらおばさんを見ると履いてる靴はハイヒール。まさかそれで運転しないよね、と思いながらビデオを見ていたのだった。
 

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。