ユッキーの紙ごはん(連載54)
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ユッキーの紙ごはん(連載54)
【子供心の残高照会しません】
ユッキー
私は3人兄弟の末っ子で、兄が2人いる。
兄達は、小学校に入学すると同時にお小遣いを貰い始めたらしい。たしか、小学生の頃は毎月1000円、中学生2000円、高校生3000円だったと記憶している。私もそれは一緒だった。
けれど私のお小遣い事情には兄とは違うことが一つあった。幼稚園の頃からすでにお小遣いを貰っていたことである。毎月500円。
両親はその理由をこういった。
「女の子だからお金を貯める喜びを覚えたほうがいい」
だから、両親は子供の私がお金を使う許可に慎重だった。
次々と新しいオモチャやゲームを欲しがる兄達が 「買っていい?」 と聞けば両親は快諾したが、私が何か新しいものを買っていいかと聞くと、早々と頷くことはなく、かといって怒るわけでもなくただ静かに私に尋ねた。
「それは本当に欲しいの?」
「1週間後も、1ヶ月後も、それで楽しく遊んでいるの?」
「まず1週間考えなさい。それでも欲しいと思えたら買いなさい」
人の言葉に左右される性格なのは幼い頃からそうだったようで、両親の疑問は脳内でぐるぐると回り、物欲は小さくなっていき結局買わないということが多々あった。
そんな出来事が積み重なると、貯金箱の中身は増えていった。兄達の貯金箱はほぼ空っぽだった。貯金をしていることにだんだんと誇らしさが湧いてきて、物欲を押さえ込む一番の理由になっていった。両親の目論見にまんまとはまったわけだ。
小学何年生の頃だったか、8万円が貯金箱の中にあった。テレビで動物の番組をやっていて、高価なウサギが6万円で紹介されており、「欲しいなあ。私のお小遣いで買えるよね」 と父に聞いた覚えがある。母は出かけていて不在だった。
その夜、父が私と兄達に、「お母さんと離婚するかもしれない」 と言った。兄達は冷静に見えた。私だけが動揺し、泣いた。
今となっては、父がどれくらい本気で離婚という言葉を口にしたのかはわからない。母とケンカでもしてむしゃくしゃしていて口走ったのかもしれない。けれど小学生だった私は聞き慣れない、けれども深刻な響きの単語をまともに受け止め、大泣きした。
寝る時間になり一人で布団にくるまって、私は神様に祈った。
「私のお小遣い8万円、全部払ってもいいから、どうかお父さんとお母さんを離婚させないでください」
6万円のウサギを買えなくなることが一瞬惜しくなって、慌てて神様に祈り直した。8万円全部いりません。神様にあげるから、お願いします。
母が帰ってきてもその次の日になっても翌月になっても、両親は離婚しなかったし、私の貯金箱から8万円はなくならなかった。
大学生になった今、これまでのバイト代が6桁単位で貯金されているのを通帳で見ると、8万円が大層な金額だった自分が懐かしくなる。あれほど使うことが惜しかったお小遣い全て投げ出してでも家族が一つであり続けることを祈った思いも。
ときどき、あの頃は純粋だったなあ、と薄汚れた現在の自分と比べてしみじみ懐かしむ。
神様をお金で買おうとする発想が純粋かどうかは、疑問の余地があるが……。
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