ユッキーの紙ごはん(連載50)

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ドラえもん』の凄さがわかります。
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ユッキーの紙ごはん(連載50)


【バイトパワハラ体験記 前】

ユッキー


 
「勤務地、池袋駅からすぐ  時給、1100円
丁寧を心がければ大丈夫、未経験者も歓迎、高級和食屋のホールスタッフ」

 世の中にはオイシイ話などないものである。いや、あるにはあるのだろうけれど、私のような弱運の持ち主が手にできると思うほど身の程知らずではないつもりだ。

 それなのに、スマートフォンの画面に映ったオイシイ話に、私は何の疑いもなく食いついた。もしかしたら私が弱いのは運ではなく、頭かもしれない。

 アルバイトを始めようと思い、検索している中で見つけた求人だった。
 時給がまず魅力的だし、勤務地も池袋駅ならば定期圏内、曲りなりにも居酒屋で2年間ホールスタッフとして働いたこともあるので接客には多少の自信があった。
 その高級店は、着物で働いてもらうとも書いていた。これも私にとってはオイシイ話だった。着付けを覚えれば、今後の人生で損はないだろうと。

 さっそく電話をし、面接をしてもらえることになった。言われたとおり履歴書を持って赴くと、恐らく170cmは超えている背の高い、細身の女性が着物で現れた。人の年齢を読むのは苦手だが、きっと30代後半から40代前半。

 電話で対応してくれた人だとすぐにわかった。非常に忙しそうな、ハキハキとした喋り方が特徴的だったからだ。
 その田辺さん (仮名) は、10分足らずで私を採用に決めた。大した話もしなかったので高級店なのにこれで大丈夫だろうかと訝しく思ったが、使ってみなければ人材はわからないという考えなのかもしれないとも思った。

 研修期間はワンピースで働くとの旨を伝えられた。膝丈までの紺のスカートに簡易な白エプロンを付けた姿を、下っ端メイドのようだと思った。この服装をしていると 「申し訳ありません奥様!」 と悲痛な声で叫びたくなる、と私は友人に冗談を言っていたものだった。

 結論から言うと、冗談ではなく 「申し訳ありません奥様!」 と悲痛な声で叫びたくなることとなった。
 奥様といっても、田辺さんは独身らしいけれど……。

 そして結論を続けて書くと、すでにこのバイトを辞めたあとである。私はたったの3週間、シフトに入った回数7回、合計労働時間約25時間で逃亡した。

 なぜなら、マネージャーに就いている男性が私の様子を見て、「逃げたほうがいい」 「残りのシフトなんて出なくていい、逃げな」 と言ったからだ。





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