ユッキーの紙ごはん(連載45)

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ユッキーの紙ごはん(連載45)


 【このエッセイを小さな復讐ということにして】


ユッキー


 

 ふとしたときに、腹立たしかった出来事が頭に浮かぶ。何の前兆もなく、何のきっかけもなしに、問答無用でどうしようもない苛立ちがリフレイン。
 私に理性が全くなかったら、ああああああムカつくムカつくムカつく!!!と女子高生の日記みたいな言葉を叫んで、地団駄を踏んで物に当たることだろうと思う。

 人生で腹立たしかった出来事暫定1位は、高校生の頃の小論文教師。
 当時私が小論文を塾で学んでいると知った担任の先生が、「小論文の上手い先生がいらっしゃるから教えてもらったらどうかしら」 と言ってくれたので、私は期待を胸にしてその男性教師に教えを乞いに行った。

 私の書いた小論文を眺め、しかめっ面で 「ふうん」 と言った彼が次に言ったことは、「文章ってさあ、人格が出るんだよね」 。

「君の文章って、冷たいね」

 彼は私の表現になど触れもしないで、ひたすら 「人柄がわかっちゃうんだよね」 「冷たいなあ」 とぶつぶつ呟いていた。

 会って間もない人間にたった400字程度の文章だけで自分の人格を予想され、否定されてしまった。
 女子高生だった私は、ああああああムカつくムカつくムカつく!!!とmixiに書き込んだりはせず、できず、家に帰ってからメソメソ泣いた。私は冷たい人間なのかな、短い文章でもわかっちゃうくらい嫌な人間なのかもしれないと。

 時が経ち悲しみが薄れてくると、図々しく傲慢に、「あんな短い文章でわかった気になって偉そうに人格否定なんてしやがって」 と思えてきた。ちょっと口にはできない汚いお言葉を心の中で吐いたりもした。それが4年くらい前だろうか。

 それ以来、いつか小説にあの教師をモデルにした人物を登場させてやると思ってきた。あいつの名前をそのまま使って、とことん嫌な人間に書いて、よくわからないけれど惨めな目に遭わせてこっそりと復讐してやろうと画策していた。

 大学4年生になり、卒業論文を考えなければならない時期になった。私は副論文と、創作として小説を書く予定だ。
 よし! 今こそあの教師をモデルにした人物を登場させてやる! あいつの名前を使ってやる!と鼻息を荒くしたところで、はたと気付く。

 あの先生は何という名前だったかな。考えてみると、名前どころか顔もよく覚えていない。

 自分の記憶力に呆れつつ、私は陰湿な復讐を諦めることにした。
 少し残念だけれど、人への恨みつらみなんて、この程度でちょうどいいのかもしれない。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。