ユッキーの紙ごはん(連載39)
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ユッキーの紙ごはん(連載39)
【私の手をお食べよ】
ユッキー
先日、熱帯園に行った。
フィッシュセラピーというコーナーがある。ドクターフィッシュという、メダカくらいの小さな魚がたくさんいる水槽に手や足を入れ、皮膚の角質を魚に食べてもらうというものだ。むかしむかし人が温泉に入ったところ、体をこの魚についばまれたのが始まりとも言われているらしい。
最初は、手をめがけて勢いよく近寄ってくる魚が怖くてヒィヒィ騒いでいたけれど、覚悟を決めて一度魚にパクッとしてもらえると、意外と平気。
そのままじっとしていると、5,6匹の魚が寄ってきてパクパクと私の手をついばんでくる。すぐ離れていくが、また別の魚がやってくる。私の手は魚たちに大人気。
不思議と、心まで癒されていく。
うふふ、私の手が、そんなに好きか……。
隣にも水槽があり、そこでは一組のカップルがやはりフィッシュセラピーを受けてはしゃいでいた。
つまり、魚は誰でもいい。当たり前だけど。
この魚たちは私個人のことなど認識していなくて、食べられる角質さえあれば誰でもいい。それはちょっと悲しい事実だけれど、それでもなお癒される。今この瞬間、私の角質を求めてきているのもまた事実だ、という都合のいい解釈をしてしまう。
水槽から手を抜いてみて一息つくと、キャバクラやスナックに通うオジサンたちの気分がちょっとわかった気がした。
相手はただ自分が生きるため、何かを与えてくれる人間に寄ってきている、その対象は誰でもよくて、自分以外にも媚を売っている……そんな現実はわかっていても、それでも可愛い生き物に囲まれている時間だけは、求められている幸せに浸れる。
そう思うと、「キャバクラに本気になっちゃうオジサンってバカみたい」 と鼻で笑う資格なんて私にはないのかもしれない。
私もともすればホストクラブにハマってしまう性質を持っているという可能性を否定しきれない……恐ろしい。
私はかなりアホなので、想像力に欠けている点が多々ある。
何度か献血を経験しているのだが、あの太い注射針を刺される瞬間は 「痛い……!」 と呻いて看護師さんを苦笑いさせるにも関わらず、ちょっと日にちが経つとその痛みを忘れて 「献血に行きたい! 針を刺されるの平気!」 と大きな口を叩いて友人を呆れさせる。あるいは、「舌ピアスを開けたい! 痛いの平気!」 と根拠のない自信を口にして友人を怒らせる。「痛がりのくせにふざけたことを言うな」 と。
一寸先は闇というけれど、アホな私は闇に片足を突っ込んでみて初めて 「あっ、思っていたより闇だった!」 と驚くタイプ。闇を甘く見ているというのか。
今回は、求められているという錯覚を抱く対象がお魚さんだったから良かっただけで、つまりは 「擬似的な闇」 だったから良かっただけで。
ホストクラブという本当の 「闇」 に落ちる前に、闇の冷たさを想像できて良かった。
……と謙虚な姿勢を見せつつ、擬似的な闇に触れることで闇への関心も高まるから困る。
いいなあ、ホストクラブ。どんなに格好良くてトークの上手い人たちが揃ってるんだろう? 一度でいいから行ってみたい。魚でさえあんなに夢中になっちゃうんだから、ホストはそれ以上なんだろうな……。
こういうとき、私は本当に自分をアホだと思う。
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