星エリナのほろよいハイボール(連載64)

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星エリナのほろよいハイボール(連載64)

笑顔になる
星エリナ
 
  親戚一同が暗い顔で私の家まで避難してきた。埼玉の私の家は二階建てで家族4人が現在住んでいる。歩いて1分くらいのところに母方の祖母が住んでいた。もともとは祖父と一緒に住んでいて、二階建ての十分広い家だ。計10人が避難してきたわけで、私の家だけでは狭すぎる。当時認知症だった母方の祖母に私の家に住んでもらい、祖母の家一軒を福島から避難してきた親戚たちに貸す、ということになった。認知症な祖母は何度もあの人たちは誰なんだ、と戸惑い、早朝になると自分の家に帰ろうとした。だけど、家には知らない人たちがいるから入れず、庭の手入れを朝からしていた。祖母の戸惑いはみんなわかっていた。
 あの日、誰よりも疲れた顔をしていたのは祖母たちではなく、遊び盛りの小学生の親戚だった。父方の祖母の妹の息子の子ども二人。四月から小学校一年生と四年生になる二人。剣道とマリオカート大好きなお兄ちゃんと好奇心旺盛な甘えん坊の妹。半日以上車に乗せられ、疲れたのだろう。ずーんと重い空気を敏感に感じ取って、お母さんにくっついたまま二人とも何も喋らなかった。私には、それが耐えられなかった。子どもたちは未来だ。もちろん私たち若者も。それが、こんな暗い顔をしていていいはずがない。すごく、苦しくなった。
 その日の夜、母方の埼玉に住んでいる親戚から、使っていない布団を集め、避難している親戚に貸した。布団運びに子ども二人を私は呼んだ。二人がもちろんしっかり持てるわけじゃないんだけど、身体を動かしたほうがいいと思ったから。私が車から運んだ布団を、玄関で二人に渡す。
「はいパス!」
 私が声をかけてどんどん渡すと、その作業が段々楽しくなってきたのか、二人も声を出した。そのうちキャッキャッと声を出すようになって、軽く笑ってくれた。3月は私も春休みだったので、暇なときは二人を連れて公園へ出かけた。買い物にも行った。二人は私を好きになってくれて、笑うようになったけれど、学校や友だちの話になると寂しそうにした。
 祖母の家にいると大人たちが難しい話をしていて、空気が重いらしく、二人はよく私の家に来ていた。ここなら兄のゲームもあるし、トランプも花札もある。それに何より遊び相手の私と兄がいる。
「ババ抜きしよ!」
 リビングに座る私たち。そこに祖母がきた。ババ抜きなら知っている。祖母も加わる。認知症の祖母は何度も二人の名前を聞いた。二人は「もー、またー?」と言いながらちゃんと名前を教えてくれた。祖母は謝りながら笑った。ババ抜きも本気でやっていて、勝つと嬉しそうに笑った。キャッキャッと楽しそうに。まるで子どもが三人いるみたいに。認知症になってからこんなに楽しそうな祖母を見たことがない。私はおばあちゃん子だったから、いっつも一緒にいたのに。
 それから、ババ抜きばっかり何度もやった。ババ抜きばっかり、ずーっと。

   

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