星エリナのほろよいハイボール(連載62)

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星エリナのほろよいハイボール(連載62)

あの日はくる
星エリナ
 
 確か、その日も朝9時からアルバイトだった。リニューアルオープンから一ヶ月したコンビニ。その日は、少し偉い人が見に来るから、お店のなかをきれいにするために、いつもより一人多くシフトに入っていた。私と、いつも明るい主婦。最近息子さんが婚約して、お嫁さんともお会いしたことがあるくらい仲が良かった。お掃除要因の男子高校生。すごく真面目で、素直な人だった。
 午後2時過ぎ。店長はいつも通り、銀行へ行くからと言ってコートを着た。じゃ、よろしくね、と言って出て行った。私はトラックのおじさんが運んできたおにぎりやお弁当のチェック。しゃがみこんで、バーコードを機械で読み取って、確認する作業をしていた。主婦がレジ。男子高校生もしゃがんで雑巾がけをしていた。それからしばらくして。
「なに!? きゃーっ」
 主婦が悲鳴をあげた。まさか強盗? こんな真昼間に? 慌てて立ち上がってレジへ向かう私。だけど、立ち上がった瞬間、歩くこともできなかった。
 2011年3月11日 午後2時46分ごろ
 忘れたくても忘れられない。あの日はきた。
 揺れがひどくて、壁をつたってなんとかレジまで辿りつく。お客さんも、商品を置いて外へ出て行った。チキンなどを揚げるためのフライヤーから、200度の油がこぼれてきた。波のプールみたいにじゃばんと溢れた。慌ててタオルを掴み電源を切った。火事にならなくて済んだ。向かいの美容室からもたくさんの人が大通りへ出ていた。5分もしないうちに店長が帰ってきて、とにかく状況を把握しようと電話をかけまくっていた。
 そんななか、私は外を見ていた。人が混乱して溢れ出てくる様は、ゲームや映画のなかみたい。こんなに揺れているのに、心は妙に静かになっていた。どうして、空がこんなに青いんだろう。そればっかり、考えていた。
 家族が心配だから、といって主婦は電話をかけていた。携帯電話はすぐに繋がらなくなって、店の固定電話を使用していた。
「東北が大変みたいだ」
 私も固定電話を使わせてもらった。市外局番、0244から打つ。何度も打った。だけど、一度も繋がらない福島県南相馬市。繋がらないことがすごく怖くなった。埼玉に住む母方の祖母にも電話をすると、すぐに出た。認知症の祖母は、地震なんて気がつかなかった、と笑った。そう、無事なの、よかった。涙が溢れた。福島県の祖母も、もしかしたらそう笑っているかもしれない。笑っていてほしい。
 そんなこと、ありえない。まだ、空は青かった。


   

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