ユッキーの紙ごはん(連載32)

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ユッキーの紙ごはん(連載32)


【ナニコレ珍脳内】

ユッキー


 
 インターネットを見ていたら、ある広告が目に入った。女性がオフィスデスクに突っ伏して寝ている写真なのだけど、その頭部は布でできた塊に覆われていた。

 どうも、お昼寝や旅行中などどこでも使える枕の広告らしい。鼻と口が出る穴が開いていて、左右にはデスクに突っ伏して寝る時のためか腕を突っ込む部分がある。

 なにこれ。
 パソコン画面の前で、一人ふっと笑った。

 机に突っ伏して寝ている人というのは、何度見ても、見慣れていても、どこかシュールさが抜けない。その頭部に被り物をしているとなれば、尚更おかしい。

 寝顔を見られたくない!という人々の切なる願いを反映した結果なのかもしれない。電車内を見てみても、寝ている人の大抵は俯いて、なるべく顔を晒さないようにしている。
 私はというと、身体が硬いのか何なのか、首があまり前に落ちない。なので、諦めて寝顔を人様に晒して生きている。間抜けな顔を見られているということに対する、恥ずかしさとちょっとの開放感。露出狂も、こういう気分なのかもしれない (安易な発想) 。

 それにしても、電車内で平気で寝てしまう日本人の無防備さに外国人が驚くというのはたびたび聞く話だが、言われてみると 「たしかに」 と思う。特に私のように、寝顔を晒して 「うふふ、恥ずかしいけどちょっと面白い♪」 なんて思っている人間は、生物として劣化しているにも程がある。野生で生きていけない。

 まあ現代人はそんなものだと開き直っていたら、この前友人が、「食べている姿を見られるのが本当に嫌い」 と苦い顔で訴えた。そうなの?と首を傾げる私に、彼女は続けた。

「三大欲求のなかで他人に見せるのって食欲だけだよ。他の二つは見せないのに、おかしい。だからいやだ」

 食欲だけ……? いや、私は睡眠欲も開けっぴろげに生きていますよ。
 自分のだらしなさと友人の神経質さとのギャップに驚きつつ、三大欲求を頭の中で数えた。食欲、睡眠欲、性欲。

 せ、性欲!
 思わず、友人の横顔を見た。なにせ、彼女とは全くといっていいほど、下世話の話をしたことがなかったからだ。そういうものに潔癖なのかもしれないと思い、私は普段から気を付けて話題を選んでいた。
 彼女は相変わらず不機嫌そうな顔をしている。

「うーん……でも性欲がいちばん人に見せている気がするけど……」

 恐る恐る、反論を述べてみる。本音だった。だって眠いからといって他人を抱き枕にして寝たりしないし、お腹が空いたからといって他人を食べたりしない。対して性欲は、他人を巻き込む。「他人に見せる」 という点では性欲が最もえげつない、と思った。

 しかしすぐに、友人が応える前に、自分の考えの過ちに気付いた。「あ、でもパートナーにしか見せないもんね……」 と言うと、友人は大きく頷いた。

「そうだよ。性欲は不特定多数に見せないじゃん。睡眠欲も。でも食欲だけはちがう」

 どうしてそんなに気に食わないのかは知らないが、彼女は人前での食事に関する話に決して態度を和らげなかった。

 かといって食べないわけではなく、普通に一緒に食事する。
 カウンター席で並んで焼き鳥をつまみながら、私はドキドキしていた。性欲という単語が彼女の脳内にあったのか……と思うと感慨深くて、一方、なんだか気まずかった。

 そしてちょっと面白かった。性欲、知ってたんだ。フフ。
 こう書くと私がヘンタイっぽい。なにこれ。



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