ユッキーの紙ごはん(連載30)

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ユッキーの紙ごはん(連載30)


【私の平和な世界】


ユッキー


 
 人混みが嫌いだ。大嫌い。渋滞のニュースで放送される、車の光が散りばめられた高速道路の映像を見て、「ふふ、愚かな……」 「家で優雅に寝ているワタシ」 と笑うのが新年あるいはお盆の恒例行事になっている陰湿な女です、今年もよろしくお願いします。

 しかしその後、「でもみんな、誰かに会いに行ってるんだ。苦労してでも会いたい人がいて、相手も会いたいと思ってくれていて、だから会いに行ってる。それはきっと苦じゃないんだ……」 「本当に愚かなのは、こうして時間を無駄にしている私のほうなの……?」 と自問して怠惰な自分を噛みしめる。ついでにお菓子も噛みしめる。連休は太る。

 そんな私が、今回の年越しは外で過ごした。人生初の体験。
 アグレッシブな友達に誘われたからだ。どこで過ごすの、と聞いて返ってきた答えは「浅草」。なんでまたそんなに人が特に多そうな場所……殺人的な混雑が目に浮かんだ。

 目に浮かんだ映像に誤りはなく、いや、むしろもっとひどかったかもしれない。人人人。思わず心が無になりかけた。

 友達曰く 「完璧な年末年始を過ごす。年越し蕎麦を食べて、初日の出を見て、初詣に行く」 とのことで、まずはお蕎麦屋さんに向かった。
 出店と人で溢れかえる浅草寺を通り抜けると、一気に人はいなくなり、静かな深夜の街が現れた。

 前を歩いていたのは、毛皮のコートを着た金髪ロングヘアーの女性。酔っ払っているらしく、よろついた拍子にヒールが脱げかけていた。頭にきたのか停めてある自転車を蹴飛ばした。
 
 嫌だなあと思いながら追い越すと、その人が背後で何かを呟いた。
 男性の声だった。

「2013年終わり間際に強烈なものを聞いてしまった」 と、友達と神妙に語りつつ、目標のお蕎麦屋さんにたどり着いた。タイミング良く、待つことなく座った。

 注文するも、お蕎麦がこない。私たちより先に座って食事やお酒をテーブルに並べている他のお客さんたちでさえ、「肝心の蕎麦がこない」 と言っていた。

 左横のテーブルも右横のテーブルも、20代後半から30代前半くらいの女性達。双方から会話が聞こえてきた。
「でね、その後輩、芸人のハリセンボンのハルナ?だかに似てるくせして、『センパイ結婚焦ったほうがいいですよー!』 とか言うわけ」 「それはウザいわ。お前に言われたくないって感じ。ていうかお蕎麦まだかな?」
「蕎麦湯割りってホットじゃないんだ……冷たいんかい!」 「文句言う?ついでにお蕎麦まだ?って聞こう」

 けれどみんな、どこどなく機嫌が良い。友達も 「蕎麦こない!年越せない!」 なんて言いながら笑っている。
 年越し、カウントダウン。そんなものどうでもいいと豪語していたはずの私も、「もうあと2分で0時だからね」 と笑いながら時計を何度もチラ見。

 結局、その場にいた全員が、年越しお蕎麦を年越し前に食べることはできなかった。年が明けてからお蕎麦を食べて、おいしいおいしいと上機嫌。

「明けましておめでとう」 って、こういうことなのかもしれない。



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