『アルゴス坂の白い家』(作・演出 川村毅。演劇学科 平成25年度3年生舞台総合実習)を観る

本日は午前一時より日藝江古田校舎中ホールにて上演されたアルゴス坂の白い家』(作・演出 川村毅。演劇学科 平成25年度3年生舞台総合実習)を観る。「文芸批評論」を受講している山下裕貴さんがアガメムノン役、「雑誌研究」を受講している柏木純子さんがクリュタイメストラ役で出演していた。演劇学科主催の公演は久しぶりに観劇したが、この日の舞台はすばらしいの一言に尽きる。学生たちの演技もかなり水準が高い。特に感心したのはエウリピデス役の鈴鹿通儀さん、彼のセリフの言い回し、演技はプロの役者を思わせる。演劇学科にこんな逸材が隠れていたとは、わたしは批評家だが、演出衝動に駆られた。
アガメムノン役の山下裕貴さんは授業中、いつも真摯な姿勢を崩さない学生で、『白痴』朗読の際はロゴージン役を担当してもらった。彼の芝居に対する情熱は授業中にも感じていたが、舞台ではプロ級の顔つきで登場していたので新鮮な驚きをおぼえた。クリュタイメストラ役の柏木純子さんは二年生の時に「マンガ論」を受講していたが、そのときから一種のオーラを発していた。
わたしの授業ではマンガや小説のテキストを使って朗読や演技をしてもらうことが多々あるが、柏木さんはいつも手を抜いていた。演技や朗読を求めると演劇学科演技コースの学生たちはいちおうに〈手抜き〉する。本格的な演技実習で鍛えられている学生たちは、文芸学科の講義もので本気を発揮することはまずない。こういった学生たちに本気を出させる授業演出をどのように仕掛けるかは、こちらの企業秘密だが、いずれにせよ日藝は八学科あるので、授業はやり方次第でクリエイティブなものともなる。舞台に登場した柏木さんは主役にふさわしい輝きを放っていた。ドストエフスキー作『白痴』のナスターシャ役に抜擢したいほどの美しさを備えている。彼女には舞台女優としての可能性を感じた。
舞台の内容はギリシャ悲劇を現代に結びつけるもので、今年、二度目の『オイディプス王』論を書き終えたわたしにとってはかなり興味深いものであった。人物、作者、神々、神……これらが織りなす悲劇に関しては、改めて本格的に批評しなければならない。今回、わたしは初めて川村毅演出の舞台を観たが、氏の悲劇を見るまなざしには親近感をおぼえた。ギリシャの古代から21世紀の現代にまで貫く人間悲劇の永遠性、普遍性を凝視し、舞台上に表現する、川村氏の創造エネルギーに心揺さぶられた。
学生たちが舞台で〈生きていた〉ことを確認できたことは本当にうれしかった。日藝生の創造にかける情熱を胸いっぱいに抱きしめてわたしは研究室に戻った。


配られたチラシ


キャスト

公演中は撮影できなかったので終了後の舞台を撮影。私が座った一番前の席からは何十枚も撮影したかった場面があったが、撮影できないのでしっかり両目に焼き付けてきた。この舞台は本当に後世に残るほどすばらしい舞台であった。エウリピデス鈴鹿さんの演技は突出していたし、その表情が実によかった。天性の役者を感じた。柏木さんはスタイルもいいし、顔つきもいい。この女優は鍛えれば大きく化けるだろうな。撮影すれば映える女優だ、肉眼に焼き付けた。

演出家の川村毅氏と記念撮影。

エウリピデス鈴鹿さんと記念撮影。

鈴鹿さんと柏木さんに囲まれて。

クリュタイメストラ柏木さん。将来有望な舞台女優。

オレステス役で男・女二役を熱演した竹岡宏樹さんと記念撮影。