ユッキーの紙ごはん(連載24)
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ユッキーの紙ごはん(連載24)
【私を知らないでください】
ユッキー
風邪を引いた。喉が痛かった。
けれど私は可愛げの欠片もないほど丈夫なので、大して熱も出ず、次の日には喉の痛みは引いていた。
しかし万が一にも人様にこの治りかけのウイルスを移すようなことがあってはいけないと思い、マスクを付けて大学へ行くことにした。
マスクを付けた顔を鏡に映してみて、女性はマスクを付けると美人度が増す、という非常に有名な説を思い出した。
マスクを付けた女性は美人に見えるというのは、要はミロのヴィーナスと同じ原理が働いていて、「欠けている(見えていない)部分を見る者の好みに想像することができるから」というのが理由だ。
しかし鏡を見つめてみても、自分の顔は嫌というほど知っているせいか、マスクを付けた自分の顔は別段美人度が増しているようには見えなかった。
ミロのヴィーナス現象は顔に限らず、内面に対しても起こる。
最近「彼女がいない生活が寂しい」と訴えてくる男友達がいて、私は彼の家に時々たった一人で泊まりにくる女性の友人がいるというのを知っているので、「その人と付き合うのがベストだと思う」といつも言う。写真を見たことがあるが美人だし、性格もすごく合うようだし、何の不満があるんだと。
しかし彼もいつも同じ返事をしてくる。
「知りたいと思わない。あいつのことは知りすぎていて、食指が動かん」
どこまで上から目線なんだというツッコミはグッと飲み込んで、まあ、一理あるのかもしれないと思い直す。
私が知る限りでも、「片思いがいちばん楽しい」と主張する女性達はいる。相手が自分のことを好きなのか違うのかわからない、付き合ったらどんな人なんだろう、と想像の余地があるほうがドキドキわくわくするんだそうな。
こういう恋愛の……なんだか恋愛の機微というもの? 残念ながらそういうものはわからないけれど、ホラー映画に置き換えるとよくわかる(ホラーものが好きなんです)。
登場人物の背後に女の姿がちらつく。長い黒髪で顔は隠れ、不気味に笑っている口元だけが見えるという序盤のシーンは、すごく良かったのに。
終盤になって、いよいよその女の霊が顔の全てを曝け出してクワッと笑うと、せっかく盛り上がっていた恐怖心が一気にしぼんでいってしまう。そんな映画をつい最近も見た。
知りたかった、知りたくなかった、知っちゃった。
期待と不安と安堵と失望と、全部混ぜてみて、どんな感情が出てくるか。
鬼が出るか蛇が出るかと待っているあいだに、自分もまた、他人に見られて知られて混ぜられている。
……と、無駄な思考をしつつ支度をし、家を出る直前にもう一度鏡を見てみた。
なるほど、マスクが若干、顔の七難を隠してくれている気がしてきた。
マスクを付けた顔で「キレイ?」と聞いてくる口裂け女は、時代を先取りしていたんだなあ。
※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。