小林リズムの紙のむだづかい(連載238)

小林リズムの紙のむだづかい(連載238)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。
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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
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清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。


小林リズムさんが八月九日「ミスID」2014にファイナリスト35人中に選ばれました。
http://www.transit-web.com/miss-id/


小林リズムの紙のむだづかい(連載238)
小林リズム
 【つまらないものですが…】


   子どもの頃好きだった絵本は、“ごんぎつね”でも“ちいさいおうち”でもなく、保育園の卒園式にもらった“おかえし”だった。確か、キツネとタヌキのご近所付き合いのお話で、引っ越してきたキツネの奥さんがタヌキの奥さんの家に出向き「引っ越してきたので、どうぞよろしく」と菓子折りを渡すことから始まる。タヌキの奥さんはそれを受け取り、何かお返しをしないと!と焦って、適当に家のなかから見繕ったものを「これ、いただいたもののお返しです」とキツネの奥さんに差し出す。するとキツネの奥さんは「まあ…、それじゃあ、これはお返しのお返しです」と家にあるものを選んでタヌキの奥さんに返す…そんなお返しをするエンドレスなやりとりが描かれていく。
 はじめのうちは、時計や椅子をお返しの品として進呈していたのが、そのうちお互いにもらったものばかりで家が埋め尽くされ、渡すものがなくなり、自分の子どもを連れて「つまらないものですが、これはお返しのお返しのお返しのお返し…です」と言って引き渡してしまうのだ。そのシーンが幼かったわたしにはとても衝撃的で(いや、大人になった今読んでも衝撃的なのだけど)、引き渡されたタヌキの坊ちゃんもキツネの坊ちゃんもせつなそうな顔で俯いている様子が印象的だった。最終的には、自分自身が「お返し」として相手の家に移り住み、お互いの家に引っ越す…というわけのわからない展開になって、なぜだか一緒に野イチゴを摘みに行って終わる。

 わたしはこの「つまらないものですが、これはお返しのお返しのお返しのお返しの…」という文章を聞いたり読んだりしながら、子ども心ながらに、「ああ…大人の世界って大変なんだなぁ」と思った。もらったものはお返しする、という日本人の美意識なのか強迫観念なのかよくわからない感覚が面白かった。「お返し」の押し付け合いは見ていて滑稽だったし、守りたいものが体裁なのか常識なのか相手への配慮なのかわからない。単純だったものが繰り返されることによってこんがらがり、本質が見えなくなっていく。この混沌とした思念をくぐり抜けながら淡々と自然のもののようにして受け入れていく「ご近所付き合い」って、はああ…すごい…。

 今、住んでいる一人暮らしのマンションの右隣の部屋からは毎朝子どもの泣き声が聞こえる。一度だけ「うるさくしてしまったら申し訳ないので」と菓子折りを持って訪ねてきたことがあった。わたしは小さい子が好きそうなドーナツを10個くらい買って「この間はどうも、こちらこよろしくお願いします。これ、お返しです」と挨拶をしに行った。そんな自分を、大人になったなぁ、としみじみした。ああ、お返ししちゃったよ、ついに。
 夜中にベランダに出てぼうっとしていると、左隣の部屋からは洗濯機がまわっている音がする。会ったことはないけど、絞り出すような苦しそうな声で咳き込むのが毎日のように聞こえてくるので「今日も安否確認!」とひとりで安心する。これがご近所付き合いだとしたら、そんなに悪くない。

   

小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
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