小林リズムの紙のむだづかい(連載204)

小林リズムの紙のむだづかい(連載204)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。
清水正の著作はここをクリックしてください。

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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。


小林リズムさんが八月九日「ミスID」2014にファイナリスト35人中に選ばれました。
http://www.transit-web.com/miss-id/


小林リズムの紙のむだづかい(連載204)
小林リズム
 【そんなにたくさんは持てないから】
    細い鎖のネックレスを西日にかざしたら、反射して嘘みたいに綺麗に光った。八百屋で並べられていた柿が籠のなかでぴかぴかしていておいしそうだった。駅の構内でボロボロの服を着た腰のまがったおじいさんが、さらに腰を曲げて頭をさげていた。横には募金箱があった。派手な柄の黒いTシャツにジーンズを合わせてキャップをかぶった若者がそこにそっと小銭を入れていた。おじいさんは「ありがとう」と言って顔をあげた。若者は軽く右手をあげて去って行った。コンビニの横で煙草を吸っていたサラリーマンが、足元に誰かが捨てた吸い殻が落ちているのに気づいて拾っていた。吸い終えたあと一度だけ空を仰いで何事もなかったようにして改札を通って消えた。

 全部本当のことなのに、ときどき小説のなかに出てくるワンシーンに出くわしたのかと思うことがある。自分の目で見た光景なのに信じられなくなる。確かめるようにして何度も思い起こすのだけど、今日も西日はまぶしいし、八百屋の柿はプラムに変わっている。若者もサラリーマンの顔も、もう思い出せない。そのときのかすかな感動だけが心に残って消えない。その消えない何かを大切に持って過ごしていけたらいいと思う。フリーターのわたしの、お金のないわたしの、恋人のいないわたしの、わずかな持ち物。

 欲しいものがある。やりたいことがある。欲は尽きることなく満たされることなくわたしを追い立てる。焦りは増幅し、求めることを抑えられない。終わりがないからきりもない。果てしない。いつまでたっても完成しない。いつまでたっても満足しない。のどが渇く。欲しがる。おなかがすく。欲しがる。足りないことを原動力にして毎日を動かす。朝起きる。歯を磨く。服を着る。化粧をする。そんなゆるくて退屈な日々のなかにも、はっとするくらいに心を揺さぶるものがひそめられているのかもしれない。見ていないだけで。気づかないだけで。

 人が生活するということ。生きるということ。永遠にみえる営みのなかの、ほんの一瞬。くだらないこと。無駄なこと。小さな棘と小さな光とを繋ぎ合わせて眺める。世界が素晴らしいかわからない。世界が美しいかもわからない。わからないからとりあえず今日も起きて、ご飯を食べて、動く。自分の目で見て耳で聞いて何かを受け取り、何かを発信する。今日は柿を剥いて食べよう。


小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
http://ameblo.jp/nanto-kana/

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