星エリナのほろよいハイボール(連載28)

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星エリナのほろよいハイボール(連載28)


 染みが消えない

  茶色のスーツを買った理由は、たぶんそこらへんの女子大生と同じになりたくなかったからだと思う。ただ、まわりが黒や紺のなか、薄茶色は結構目立つ。その分、テキトーなことをしてしまうと、見た目だけか、と思われてしまう。だから、大人にも舐められないよう、一人前の働きがしたい。そういう意味で自分に気合を入れるためだったのかもしれない。
 就活するには向かない色だったから、就活のためのスーツを探し回った。やっぱ買わなきゃだめかな、と思いスーツを売ってる青いお店に行った。就活生向けのパンフレットなんかをもらうと、今時のモデルさんがスーツをプロデュースしていたり、華やかだった。たしかにかわいいけど、お高い。安物を探すと、ちょっとデザインが気に入らない。とりあえず買わずにその日は家に帰った。家に帰ると、母と母の姉がリビングでおしゃべりをしていた。まったくお互いに人の話を聞かずにマシンガントークするもんだから、どうして二人の間で会話が成立しているのかわからない。そんな二人にスーツの話をした。すると母の姉が、家にたくさんあるという。従姉妹たちが着ていたものをとっておいてあるようだ。
 そうしてゲットしたスーツ3着。青いチェックが入っているものと、紺と黒。スタンダードなスカート。着てみると、まー普通。当たり前か。
 茶色のスーツを着て、一度お酒の席へ行ったことがある。スーツで飲むのはちょっときちきちして嫌だな、なんて思っていたときだった。知らない酔っ払ったお兄さんが、よろけて私のスラックスにビールをぶちまけた。ものすごいショックを受けたけれど、相手に謝られるとつい「大丈夫です」が出てしまう。「大丈夫」「オッケー」「なんとかします」最近そればっかり。
 とにかくお兄さんはふらふらしながらも何度も謝ってくれたし、お気に入りだったので悔しいけどしょうがない。翌日すぐにクリーニングに出した。染み抜きをしつこくお願いした。おばちゃんは「はーい染み抜きねーはーい」と間延びした返事をしてくれた。
 それから半年、実はスーツを着ていなかった。先日着る機会があったので、私はあの茶色のスーツを着た。アイロンがけした白いシャツを着て、スーツに腕を通す。あら、右太ももあたりに、何か線が入ってるように見える。そういえば、ビールぶちまけられたのも、右太ももだったなあ。よく見ると、染みだった。え、染み抜きしてもらったはずなのに。すごくうっすらだけども、確実に染みがある!
 なんで染み、消えなかったんだろう。そこらへんの女子大生より特別な存在でいたい、とよくわからない意地を張り、茶色のスーツなんて買っちゃったのが間違いだったのかな。でも気に入ってるし、そんなに目立たない染みだし、これからも着ると思う。
 私が茶色のスーツを着ているとき、右太ももをあまり見ないでね。

 


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