山崎行太郎さんの『保守論壇亡国論』 


山崎行太郎さんの『保守論壇亡国論』 (K&Kプレス 定価1400円)が評判のようで毎日新聞(10-6)に書評が載り、十月十日の「日刊現代」は一面、二面をさいてこの本をとりあげている。私も昨日読み終えた。俎上にあげられた〈保守論壇〉のひとたちは櫻井よしこ中西輝政西部邁渡部昇一西尾幹二、孫崎亨、曽野綾子の七人。著者は道場破りの素浪人のごとき勇ましさで保守論壇を〈愚者の楽園〉にしたのはおまえたちだと、彼らをみじんの容赦もなくメッタ切り、否、木刀で打ちのめして、「いつでも堂々と反撃に応じるぞ」の捨てぜりふを残して道場を後にしている。いかにも挑発的な書き方で、現在の保守論壇に物足りなさを感じていた読者には拍手喝采で迎えられよう。ところで、私は勇ましい政治評論をしている山崎さんよりは、文芸評論家としての山崎さんを評価している。本書の最後に〈補論二〉として再録された江藤淳インタビュー「『思想と実生活論争』をめぐって」を読み、はっきり言ってこの十七年前に「海燕」誌上に発表された対談が最も面白かった。この対談はまさにインタビューのかたちをとった批評家同士の真剣勝負で緊張感がみなぎっている。木刀で〈保守論壇・楽園道場〉に乗り込んだ時の挑発的な仕草や受けねらいはまったくない。『保守論壇亡国論』はこの対談を再録したことに最大の刊行意義があったとさえ思った。山崎さんはドストエフスキーが「作家の日記」を書き続けたと同じ気持ちで、時事的な問題にも真剣に取り組んでいることは理解しているつもりであるが、しかし江藤淳との対談に見られる真剣度は、楽園道場破りの比ではない。が、どうやら山崎さんはこれからも木刀一本を脇差しに、飽かずに道場破りをするつもりのようだ。それにしてもメッタ打ちされた七人のうち、一人ぐらいは山崎さんに決闘を申し込んでもいいようなものではないか。頭を木刀で叩かれても、黙殺を決め込んでいるのだろうか。言論人としてのプライドなど、とうの昔に葬り去ってしまったのだろうか。