ユッキーの紙ごはん(連載18)


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ユッキーの紙ごはん(連載18)


【他人の傷の上に生きている】

ユッキー



インターネットを見ていると、頻繁に「アスペ」という単語を見かけるようになった。
多くの場合、「アスペだろ」と他人をバカにする時に使われていたり、「これがわからない奴はアスペ」と言ってクイズのようなものが一緒に書かれていたりする。

この「アスペ」とはアスペルガー症候群のことであり、簡単に言うと発達障害のことだ。特にコミュニケーションに問題があるので、上記したような、要は物事や発言の本質を掴めていない人間を「アスペ」と揶揄するのが最近のネットの流行(?)らしい。

私はこんなやりとりをネットで見かけるたびに、心の中で笑う。ハハハ。
アスペルガー症候群に関わっていないからこそ簡単に他人に「アスペ」だなんて言えるんだろうと思うから。

 私にはアスペルガー症候群の兄がいる。
というわけで誤解を恐れずに言わせてもらうと、もうマジ面倒臭い! もう一人の兄(アスペルガーの兄から見たら弟)は、「兄弟に扶養義務は無い。俺は絶対にあいつの面倒を見ない」と言って逃げているくらいだ。

 恐らく、兄が完全に一人で生きていくのは難しい。両親が亡き後は、私が面倒を見なければならない。詳しいことは割愛するけれど、そんないつかくる未来を、嫌だと思う日のほうが多い。私だって逃げたいのが本音。

そういう生活の中で、そして今の世の中で、どういう顔をしていればいいのかわからない時がある。

差別はいけないと抑圧された反動なのか、はたまたインターネットの影響なのか、それはわからないけれど、最近の世の中では本当によく「アスペ」や「知障」(知的障害のこと)など、障害をバカにしたり迷惑がる言葉や意見を目にする(言葉そのものが悪いと言っているわけじゃありません、念のため)。

こんなことは正直隠していたいけど、私は「良い人」じゃない。障害を持つ兄を邪魔に思ったり、障害だから仕方ないとわかっているはずなのに腹が立って言葉で傷つけたりする。
だけど今のところ一応、彼と向き合っていこうと思っている。

私はなんだかんだで両親が好きだ。けれど成長するにつれて、今の両親は、兄がいなければもっと違う人間だったんじゃないかと思うようになった。
障害を持つ息子を何とか社会で生きさせようと努力し、周囲の人に助けられていくうちに、きっと今の両親になったのだと思う。特に、父は昔はもっと横柄な人間だったような記憶があるし、父の友人もそんなことを言っていた。

今の両親でなければ、今の私はいなかったような気がする。
兄本人も、周囲に上手く馴染めない自分を「おかしいんじゃないか」「バカなのか」と悩み続けてきた。それは今も変わらず、常に何かに苦しんでいる。

つまり兄や両親が傷付いてきたおかげで、今の私がいるんじゃないか。そう考えると、逃げてはいけないのかもしれないと思う。「関係ない」と言い張るには、私はあまりに自立しないで生きてきた。

インターネットで「障害者は邪魔」とかいうぶっちゃけた意見を見ると、「まあそうでしょうな」と思う。実用的ではないことが多いだろうなあ。うちの兄みたいに。
でも人間は、実用だけで生きているわけじゃない。少なくとも私は違う、そもそも私自身がそんなに実用的な人間じゃないし。だけど実用じゃない部分でもちょっとは必要とされたり愛されたりしている。……たぶん。

そうやって自分を説教しつつ、頑張ってみている最中です。いろいろと。
兄が障害者手帳を活用してバスなどを安く利用していろいろなところに出掛けているのを見て「アスペもなかなかたくましいなあ」と笑えているうちは、大丈夫だと思うから。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。