ユッキーの紙ごはん(連載16)

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ユッキーの紙ごはん(連載16)


【小林リズムさんに会っちゃった】

ユッキー



木曜日。今週のエッセイどうしようかなあと思いながら大学へ行くと、西棟エレベーターで山下先生にばったりお会いした。

「あっ。今日ね、小林リズムが来るんだよ」

私も取っている山下先生の講義、文芸特殊研究Ⅰにゲストとして来るのだと言う。

そういうわけで、リアル・小林リズムさんに会っちゃった(と言っていい距離かどうかは微妙だけど)。
私も清水先生のブログに連載させてもらっているユッキーですってちゃっかり自己紹介しちゃった。質問もしちゃった。「自分のことどのくらい可愛いと思ってますか?」とか聞いちゃった。うわあ性格悪い。

でも意地悪い質問だとわかっていつつも、聞かずにはいられなかった。
だって小林リズムさん、可愛かった……。私の隣に座っていた友人2人は人の容姿に厳しい女性だが、彼女たちも「可愛い」と連呼していた。
そんなリズムさんが自分の可愛さを自覚しているのか、聞きたかった。本当に性悪なのかを確かめたかった。

結果から言うと、爽やかな性悪だった。私のような人間にとっては嬉しくなる性悪とでも言えばいいのか。
私のようにいやらしい人以外には想像しにくいかもしれないけれど、可愛い子がとっても性格良くて自分の可愛さにも謙虚にしている姿よりも、可愛い子が自分の可愛さを武器にしたたかに戦っている姿のほうが、なんだか嬉しいのだ。安心する。
というのは多分、綺麗なホテルは少し泊まるだけならともかくずっと暮らすには窮屈で、小汚いし「もっとこうならいいのに」って思うような欠点もいっぱいあるけど何だか落ち着く自分の部屋のほうがやっぱり好きだと思うのと、同じ心理。

今こうしてエッセイを書いていて、咄嗟に「別に小林リズムさんが小汚くて欠点だらけって言いたいわけじゃないです」と言い訳を付け足そうかと思ったけど、止めた。一応ごめんなさい、でもそれが本当に素敵だと思ったんです。

そう、彼女はとても素敵だった。
山下先生が「あの子、めちゃくちゃ緊張していて」と仰っていたのだが、そんなことはなく落ち着いた様子で(内心はどうだったかは計りかねるけれど)テンポ良く話していて、ちょいちょい笑いも取っていた。
もちろんそういうトークの面白さも、失礼な質問をされても笑ってくれる寛容さも、笑顔の可愛らしさも、いろんなことが魅力的だったけど、個人的に最も印象的だったのは彼女の欠点や失敗だった。

このご時世、サクセスストーリーなんてどこにでも転がっている。サクセスストーリーならみんな話したくなるだろうし。そういうものが人を勇気付けるのは否定しない。でも私のような人間の心のどこかには、「結局、強くて、しかも成功した人間の言い分でしょ」なんて卑屈な思いも残っている。

「ミスIDで、いっぱい泣きました。結局落ちちゃいました。頑張ったのに、ここまで自分を晒したのに何だったんだろう、無駄だったのかなとか思いました。審査の時も上手く喋れなくて、オドオド喋るねなんて審査員の方に言われました。ツイッターでの様子で審査員の人が誰を推しているかとか何となく見えちゃうのでそれも辛かったです」

小林リズムさんは、こんなことを話していた。
アイドルオーディションを受けようっていうチャレンジ精神のある人でも、エッセイを毎日書き続けてもうすぐ連載200いくっていう継続力のある人でも、性悪を名乗って下品ネタを曝け出す覚悟のできる人でも。辛いことがあれば泣くし、自分の頑張りが無駄だったのかなと思ったりもするし、本番で上手く話せなかったりもするし、審査員の人に厳しいことを言われたりもするし、ツイッターでの様子だなんて細かいことを気にしてへこんだりするんだ。

そう思うと、すごく嬉しかった。「成功した強い人間の言い分でしょ」なんて卑屈な突っ込みは彼女に通用しない、だって「成功していない人間が強くなろうとしている真っ最中」なんだから。

そして人は大抵、そういう姿を晒したがらない。成功せずに終わったら、強くなれずに挫折したら恥ずかしいから。私だって晒してこなかった。
でももしそんな恥ずかしい思いをしても、きっと小林リズムさんはネタにしてしまうんだろうなあ。

だったら私だって、と。つい思ってしまう。おかしな勇気が湧いてくる、不思議で素敵な人だった。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。