星エリナのほろよいハイボール(連載21)

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星エリナのほろよいハイボール(連載21)

 信頼と無知を知る


 
 私の中学時代を語るのにこの方なくては語れない! 音楽の先生、本橋先生。私が中学生だったころに、50代だったマダム。小柄で細身なんだけど、とてもパワフルな先生でした。吹奏楽部顧問で、中学二年、三年のときの担任の先生。ほんと、お世話になりました。
 中学生のころは特に優等生の皮を被った二重人格で、見栄っ張りが最高潮時代だったため、先生方の前ではニコニコして、家ではぐーたらしてばっかり。そんなんだから先生に怒られたりすることは少なかった。一年生の音楽の歌のテストでは、負けず嫌いが発動しまくっていた。「私、音楽は大得意。エレクトーンも習っているし、歌なら自信あるんだから」オーラがものすごい、ちょっとふくよかな女の子が同じクラスにいた。誰よりも声量もあるし、堂々としている。彼女ばっかり注目されているのがつまらなくてふてくされた。いざ、歌のテストになる。一番最初のテストだったので、全員一列に並んでみんなで一緒に歌うことになった。本橋先生は一人ひとりの前に立って、ちゃんと歌声を聴いてくれる先生だった。
 テストの全体的評価をクラスみんなに話したとき、彼女の声量は堂々としていて素晴らしいと名指しで誉めた。ちぇっ。ふてくされる私。
「でも、一位は星さんかな。腹式呼吸もしっかりできているし、頭声発声がとてもきれいです」
 クラスのみんなにはすごいね、と誉められたけど、そんなことないよ、と返した。もちろん心の中ではガッツポーズだ。見栄王な私にとって一位は最高に気持ちよかったし、なにより自信満々だった彼女を打ちのめすことができたからだ。
 そんな私をみんな誉めた。ノート貸してとか、一緒に試験勉強しようとか、頼りにされた。そんな私を中学三年間で一番叱ったのが本橋先生だ。猫かぶっていることが、同じ女の先生にはバレていたんだと思う。先生は私に歌い方とか音楽のことのほかにもたくさんのことを教えてくださった。なかでも、二つのことを今でも覚えている。「信頼」と「無知」である。
 吹奏楽は信頼しなければできない。仲間と信頼しなきゃ、良い演奏なんてできっこないんだって、先生は言った。たくさんの事件が吹奏楽部内で起こった。ときには、信頼を裏切ることもしてしまったし、信頼していた子に裏切られたこともあった。信頼をとりもどす、ということは難しいことなんだって、学んだ。
 そして、無知であることは恥であること。中学生にして見栄っ張り女王に君臨した私は、自分が一番だと思い込み、なんでも知ったつもりでいた。でも、そんな私に、自分が「無知」であることを叩き付けたのが本橋先生だった。そして、それは何よりも恥だと言った。私はそれから、大量に本を読むようになった。自分が無知であったことが、本当に恥ずかしいと思ったのだ。もっといろいろなことを知りたい。知識欲が膨らんだ。
 高校生になり、世界史の授業第一回目の時間、先生はアンケートを配った。世界史についてどう思うか、などなど。最後に将来の夢、やりたいことを書く欄があった。私はそこに「世界中の全ての物事を知ってから死にたい」と書いた。なんて傲慢なんだろうと思ったけれど、それも私らしくていい。
 


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