星エリナのほろよいハイボール(連載19)

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星エリナのほろよいハイボール(連載19)

 屋上で富士山を見た
  埼玉県のごく普通な市立中学に通っていた私。母親からは必ず、必ず運動部に入れと言われていた。運動部のほうが成長する、とか、いろいろ言われたが、私は文化部に入った。母親に対する反発心だったことは認めよう。母はテニス部で真っ黒に日焼けして当時のあだ名は「ケニアちゃん」だったらしい。
 なにそれ、絶対やだ。
 暑い日も寒い日も運動しなきゃいけないなんていや。ピアノを習っていて、音楽だったら少しはできるので吹奏楽部に入部。単純な子どもだったといえば、そうだった。
 中学校のグラウンドは小学校なんかより全然広かった。校舎も一つだったのに、二つになった。プールもテニスコートもあった。そんな学校のなかで、一番安心するベストプレイス。みんなにもあったでしょう? トイレとか。保健室とか、図書室とかね。私のベストプレイスは外階段の一番上。
 吹奏楽部の部室はもちろん音楽室。音楽室は四階の一番端っこにあった。そこから外に繋がる扉をあけると、外階段にでる。外階段は一階から続き、四階のもう一つ上、屋上まで繋がっていた。とはいえど、本当は四階から上に行ってはいけない。一応屋上へ上がる階段には錆びた鎖で「立ち入り禁止」の札がついていた。それを軽々乗り越えて、屋上へ行くのだ。
 クラリネットを吹いていた私。クラリネット木管楽器なので、直射日光に当てることはよくない。できるだけ日陰を選んだり、少しの移動でもケースに入れて持ち運ぶ。そういう細かいことにも気をつける。ちなみに甲子園などの応援では木管楽器も外で吹いてますね。あれは樹脂製の楽器を使ったりしているようですよ。
 貧乏な市立学校の吹奏楽部は必死に楽器を大事にしている。でも本当は、外で思いっきり吹いてみたい。トランペットのように響かせてみたい! ずっと私はそう思っていた。だからこっそり、あの屋上へ楽器を持っていったことがある。
 空気が澄んだ、冬の朝練だった。白っぽい朝は、まだ直射日光がきつくないと思ったのだ。大切にタオルに包んだクラリネットを持って、いつものように鎖を乗り越えた。朝日は差していたけれど、私は思い切ってクラリネットを吹いた。
 結果、トランペットのように吹くことはできなかった。トランペットはラッパの部分が正面に向いているのに対して、クラリネットは縦笛。下を向いている。うーん、遠くまで音が届かない。あんまりかっこよくなかったなぁ。つまらなくなってすぐに吹くのをやめた。グラウンドから響く運動部の声のほうが大きい。少し悔しくなった私。
 そのとき、ふと見た富士山を私は今でも覚えている。ちょうどその屋上から正面に見えるのだ。あんまり大きくない富士山が。あーあ、空気が澄んでるよ。当時のひねくれた私にとって、その富士山はどどーんと堂々としていて、それもなんだか悔しかった

 


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