星エリナのほろよいハイボール(連載18)

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星エリナのほろよいハイボール(連載18)
  トランペットを投げつけた

 私はとにかくかわいくない子どもだった。大人に媚びると得をすることを知っていた。そんな私は次第に見栄っ張りになり権力を身につけ、外ではいい顔をし、家ではわがままし放題の二重人格に育っていった。中学生に上がると生徒会選挙に立候補した。一年生で立候補したのは私ともう一人の男の子。先輩から聞いた噂だが、毎年一年生は一人しか当選しないらしい。そんなわけで彼と私は選挙活動時からライバル。演説日なんて互いに噛め!噛め!と念じ合った。結果、私は当選、彼は落選。正々堂々、ではないのかもしれないけれど、互いに一生懸命だったことはわかっているので、その後気まずくなるようなことはなかった。
 私は生徒会に一年生から所属し、いろいろと忙しい日々を送った。部活は吹奏楽部で、クラリネットを吹いていた。ピアノを習っていたこともあって、楽譜は読めるし音楽用語の理解もあったから、なんとなくうまく出来た。だけど、器用貧乏らしいところがあり、ある程度は何でもできるんだけど、それ以降あまり上達しない。最初のうちは「すごいね。よく出来たね」と誉められて調子に乗るのだが、だんだんだんだん飽きるのだ。吹奏楽にも、飽きた。私は音楽室の隣の生徒会室で、エスケープすることが癖になった。
 それから二年生にあがったときも生徒会に所属した。私が生徒会室で本を読んだり小説を書いている間、吹奏楽部内ではいろいろなことが起きていたようだ。合奏の練習日は先生が来る時間より前に音楽室に集まり、合奏練習の準備をする。クラリネットパートは最前列なのでできるだけはやめに行くようにしていた。大きな楽器を持った人たちで音楽室が埋まると動くのが難しいから。
 その時間、音楽室にいたのは私たちクラリネットパートと、楽器の移動が一番大変なパーカッション、部長がいるサックスパートだった。そこへトランペットパートがきた。何も考えず私は楽譜の確認をして、楽器のピッチ調節をしていた。最前列に座ってると背後で起こっていることがわからない。だから私はあの空間で最後まで音を出していた。
「いいかげんにしろよ!」
 叫び声でやっと振り向いた。どうやらみんなは気付いていたようだ。トランペットの女の子とパーカッションの女の子が喧嘩している。エスケープしていた私には理由がわからない。パーカッションの女の子が大きな声で叫ぶが、相手はトランペットを吹き続けている。
「無視すんなよ!」
「なんなんだよもう!」
「言いたいことあんだろてめー」
「ねーよ。どっかいけよ!」
 わー、喧嘩だ。としか思えなかった。サックスを首から提げた部長はおろろしていたけれど。
「なくねーだろ! はっきり言えよ、うぜーな!」
 うぜーと言われると、トランペットの女の子はいきなり立ち上がった。
「ねーっつってんだろ!!」
 そう叫ぶと床にトランペットをたたきつけた。そして走って教室から出て行った。パーカッションの女の子も追いかけて出て行った。音楽室内はとても静かになった。
 その後部長はおろおろして後輩たちも練習を続けるべきか悩んだりしていたのだが、私はずっと考えていた。あのトランペット、いくらするんだろう。いくらカッとなったからって、私は自分が今手に握っているクラリネットを投げつけることなんてできない。それは楽器を大切にしている、というよりは自分が小心者なだけ。誉められたことではないけれど、ちょっとかっこいいな、と思ってしまったのだった。

 


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