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紙のむだづかい(連載132)
小林リズム
【東京きゅんきゅん物語〜みゅうちゃんのはなし〜】
みゅうちゃんと出会ったのはバイト先だった。当時彼女は17歳で、鎖骨の下あたりに刺青を入れていた。刺青は蓮のデザインで、付き合っている彼の名前が彫られていた。もちろん彼女の年齢で刺青を入れるのは違法なのだけど、付き合っている同じ年齢の彼の友達にその手のプロの人がいるらしく、内緒で彫ってもらったらしい。
「はじめて煙草を吸ったのは、小学4年生のとき」
とみゅうちゃんは言っていた。みゅうちゃんは福島県からトランク片手にひとりで東京にやってきた家出少女だった。再婚した母親の新しいお父さんとソリが合わないらしく、そんなみゅうちゃんにお構いなしに生活している母親にも腹が立って、しょっちゅう友達の家に泊まりにいっていたのだという。そうして冬にアルバイトをしたスキー場で出会った彼と盛り上がり、そのまま福島を出てきてしまったのだった。
なぜかみゅうちゃんはわたしによく慕ってくれた。生き方も考え方も正反対なのに、頻繁にわたしを遊びに誘った。遊びといっても近くの公園のベンチに座って彼女が煙草を吸っているのをずっと眺めたり、「かなり痩せた」というみゅうちゃんのくびれを触ってびっくりしたり、メイクの勉強をしたいというみゅうちゃんの夢を聞いたり、「東京にきて変わりたいと思った」という打ち明け話を聞いたりしていただけで、お金も時間もあんまり使わなかった。
「水商売はぜったいにやらない」
とみゅうちゃんはよく言った。みゅうちゃんの信念みたいなものは、あまりにも統一性がなくて、突拍子もなくて、いつもついていけなかった。刺青をする、煙草も吸う、でも水商売はやらない、そして髪の毛も染めない、ピアスは開けるけど2つまで。今から考えると、そのいびつな形をした信条こそ彼女の精神のバランスを表していた気がするのだけど、18歳だったわたしにはそれがわからなかった。
あるとき、みゅうちゃんは真夜中に電話をかけてきた。居候させてもらっている彼氏と別れるという。「暴力に耐えられない」と言っていた。そして「東京から離れたくない」とも。わたしは眠気に襲われる朦朧とした意識でただただ聞いていたのだった。祖父母に住まわせてもらっているわたしにはどうしようもできない。
翌週、久しぶりにバイトへ向かうと、みゅうちゃんは店長と付き合っていた。店長はみゅうちゃんとふたまわりも年齢が違う。「店長に相談したらうちに来いって言ってくれたの」と彼女が言うので、切なくなった。彼女がほしがっているものをわたしはあげることはできない。だけど、店長も彼女にそれをあげることはできないと思った。わたしはなんだか嫌な気持ちになって、彼女と距離を置いた。そしてそのままバイトを変えることになり彼女と疎遠になったのだった。
みゅうちゃんが実家へ帰って結婚して子どもを産んだ、という話を聞いたのはつい最近の話。そうか、帰ったのか、と思った。そしていつも満たされない気持ちを埋めようと必死になっていた彼女が、子どもを産みお母さんになったのだ。
みゅうちゃんが恋した東京にはなにがあったのだろう。みゅうちゃんは欲しかったものをここで見つけられたのだろうか。月並みだけれどわたしは、彼女のこれから先の生活がずっと幸せだったらいいなと思う。
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