小林リズムの紙のむだづかい(連載130)

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紙のむだづかい(連載130)
小林リズム

【変色アピール】
 
 初恋はたぶん、小学5年生の頃だった。ひょろっとした体格の、これといって目立ったところもないふつうの男の子だったのだけど、友達が彼のことが好きと言っていたのを聞いてマネして好きになったのだった。初恋からマネっこなんて悪趣味だと思うけれど、恋そのものに憧れていたわたしは相手なんて誰でもよくって、友達との交換日記のなかできゃあきゃあ騒ぐことが楽しかった。目が合った回数だとか、話せた回数だとかを競っていた気がする。

 チャンスがめぐってきたのは理科の授業だった。魚の解剖をするという課題の日に、好きな男の子と同じ班になったのだ。嬉しさのあまり「何かアピールをしなくては…」と変に意気込んだわたしは、解剖用のナイフで台に横たわる魚をグサグサと刺し、内臓をえぐりだしてひっぱるという過激な方法に出たのだった。同じ班の女子が怖がっているなか「ねぇ、みてみて?綺麗だねぇ」と目ん玉からくりぬいた透明の水晶体を見せつけるわたしを、彼はどう思ったのだろう。「水晶体ってかたいねぇ」と言いながら、無理やり切り込みをいれようとするわたしに、果たしてときめいてくれただろうか。
 授業の終わりになって先生が「勉強させてもらったので、ちゃんと魚にお礼をいいましょう」とぐちゃぐちゃになった魚へ黙とうをささげる時間がとられたのだけど、あの生臭い教室のなかで、彼が丁寧に手を合わせて目をつむっていた光景だけは今も鮮やかによみがえるのだった。あのときほど純真な気持ちで相手に向かうことはもうできないと思う。

 偏屈に成長してしまったわたしは、好きな人に対して直球のアピールができない。「可愛いことを言おう!」と気合いをいれても、次の瞬間には「かわいこぶって媚を売っているわたし」に我に返って、いつも逃げてしまう。
「わ、すごい!かっこいいね!…あ、トイレ行ってくる」
また、あるときは自虐に走る。
「おお、さすがだねぇ!…それに比べてわたしは…云々」
ひどいときは褒めたあとにけなす。
「優しいね!…でもホントにそう思ってるの?偽善?ねえ?なに?」
自分のなかでは筋が通っているのだけれど、はたから見れば面倒くさいヤツ以外の何者でもなくて、かなりの情緒不安定なのだった。

 高校生のころは家庭科の授業でここぞとばかりに「料理できます!」アピールをしている女子を横目に、「ジャガイモ剥けない!」と包丁の使えなさアピールで注目を浴びようとしていた。当時わたしはものすごく計算高いつもりだったのだけど、そのアピールの効能がいっさいないのだから計算できないくせに計算した気になっている勘違い人間にほかならない。
 人はこういう痛い経験をひとつずつ重ねて成長していくものだと思うし、そう信じたい。「あの子、痛いよね」と言われないために、今まで必死に自虐をし、へりくだって生きてきたつもりなのだけど、それも客観的にみて成功したのかどうかはわからない。そんなわけで今日もまたひとつ、痛いエッセイを書き上げるのだった。

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