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紙のむだづかい(連載128)
小林リズム
【乙女のたしなみ】
「若い子の放尿音は勢いがあるから、駅のトイレでもすぐにどれくらいの年齢の子が個室に入っているかわかる」
…と言っていたのは誰だったっけ。もしそれが本当なら、年をとるごとにチョロチョロとしょぼい感じになるのだろうか。勢いがあったら早く終わりそうだけど、チョロチョロしていたら時間がかかりそうだなぁ…。それでも最近はあんまり、人の放尿音なんて耳にしなくなった気がする。
「私は会社のトイレでどいつもこいつも音姫を使っているのをいいことに、自分だけボタンを押さず彼女たちの音姫の音にまぎれて思いきり無修正で致すのを昼休みのささやかな楽しみにしていた」 ― 綿矢りさ著:勝手にふるえてろ
…という文面を我がアイドルである綿矢さんの作品のなかに見つけて、ますます彼女の虜になった。おぉ、わかる!と感動する領域で共感して、誰もが口にしなかったことをサラリと表現してしまうそのセンスにやられたのだけど、今の日本の男性で、この“音姫”の存在ってどれくらい知られているのだろうか。もしかして、男性用のトイレにもあったりするのだろうか…。
音姫は「放尿音をほかの人に聞かせたくない!」という乙女の恥じらいを守るためにできた画期的な商品で、トイレットペーパーの上だとかに設置されていることが多く、ボタンを押したり手をかざしたりすると20〜30秒くらいザザーッと水の流れるような人工音がする。これは「音が聞こえたら恥ずかしい…」という理由で何度もトイレを流す女子たちを対策するための一種のエコで、今では公共のトイレならどこにでもあり、すっかりおなじみなのだった。なんでも「音姫キーホルダー」なるものもあるらしくって、それは音姫が設置されていない場所のトイレに行ってしまったときのために使うらしい。
けれどわたしはこの音姫がどうしても好きになれず、(地球に悪くて申し訳ないのだけど)放尿中はいつもトイレを流し続けている。水が流れている間に用を足してしまわないといけないから、わたしはいつも急いでトイレをすませる。こうしてわたしは友達に「速トイレの達人」とまで言われるようになったのだった。こうなるともう、逆にトイレにゆっくり行くことが許されないような気がして、遅かったら生理や便だと勘違いされそうだから、鏡の前でのメイクチェックもそこそこにしてしまうという負のループに悩まされている。
音姫を好きになれない理由は「いかにも!」という水の流れる音がするからなのだった。ジョボジョボ…という音はすぐ横に流せば生の音が聞こえるトイレがあるというのにしらじらしくて、「音を消すために流していますよ」とアピールが強いから勝手に恥ずかしくなってしまう。どうせだったら、わざとらしい水の音ではなくて、映画の宣伝でも流れてくればいいのに。「この夏。映画界に新たな旋風を巻き起こす…!」というナレーションとか。
もしくは、ジャパネット高田みたいなテレビショッピング系でもいいかもしれない。「トイレ中のみなさま!本日ご紹介する商品はこちら!」…なんだかやかましいうえに、トイレ混みそう。音姫との戦いは日々続くのだった。
みたいにしてトイレという個人的な空間のなかで行われる宣伝。
が名ばれればけっこう受け入れられる気がする。トイレという個人的な空間のなかで行われるしめやかな宣伝は、きっと効果がある。それかCDの宣伝とか、テレビショッピングでもいいや。
している感じがして距離を置いてしまう。
「私は会社のトイレでどいつもこいつも音姫を使っているのをいいことに、自分だけボタンを押さず彼女たちの音姫の音にまぎれて思いきり無修正で致すのを昼休みのささやかな楽しみにしていた」 ― 勝手にふるえてろ/綿矢りさ
…という一文を読んだとき、おぉ、わかる!と感動する領域で共感したのだけど、今の日本の男性の方でこの“音姫”の存在ってどれくらい知られているのだろうか。もしかして、男性用のトイレにも音姫ってあったり…?
音姫は「放尿音をほかの人に聞かせたくない!」という乙女の恥じらいを守るためにできた画期的な商品で、トイレットペーパーの上だとかに設置されていることが多く、ボタンを押したり手をかざしたりすると、20〜30秒くらいザザーっという水の流れるような人工音がするのだった。ただ、わたしはこの音がどうにも好きになれず、
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