小林リズムの紙のむだづかい(連載120)

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紙のむだづかい(連載120)
小林リズム

【お母様とお呼び】
 
  子どものときって大人が絶対的な存在で、その大人というのは主に両親で、純粋な気持ちで「ママが言うことはすべて正しい」と思っていた。だからこそ何かにつけて「ママに言いつけるからね!」という言葉を言い合って、姉弟喧嘩ではお互いを脅かせていた。どんな言い合いもとっくみあいも、正しい判定は母が下す。母の言うことに異論はなく、間違いなんてありえなかったのだ。

 そんな母がまだ私たちにとっての権力者だったころ、「ママ」という呼び方から変化させていく過程で、なんでか知らないけれど「今度からはママのことをお母様と呼んでね。パパのことはお父様。わかった?」と言われたのだった。
 そのころ私は小学校低学年くらいで、2歳年下の弟はそれ以上に小さくて、子どもながらに「おかあ…さま?」という違和感はあったのだけれど、なんせ母のいうことに間違いはないのだし、無垢な姉と弟は素直にそれに従うしかなかった。

 田舎の片隅に小さな家を構える、平凡な庶民の家庭で「お母様、お父様」と呼ばせようなんて母は何を考えていたのだろう。うちはお金持ちでもなんでもなかったし、母と父はお金のことで喧嘩をしていたこともあったし、とにかく「お母様」なんて呼ぶ家庭にはまったくそぐわなかったのだ。今から考えるとあれは、東京から田舎に引っ越すことになった母の、ささやかな見栄だったのかもしれない。もちろんそんな変な呼ばせ方をする家は学校内にもまったくいなくて、「あぁ、あそこのおうちってお母さんのことを“お母様”って呼んでいるご家庭でしょ?」という噂までできてしまっていた。

 次第にオカアサマは、私の生活にまで浸食してきた。友達の前でも「うちのお母様はね」なんて話していたからご令嬢風なイメージを持たれるし、私は泣き虫でおとなしかったから、おしとやか(!)だと評価されていたのだった。あの頃が人生のなかで良質なイメージを持たれる全盛期だったのかもしれない。全部つくりものだったけれど。成長していくにつれて、その呼び方がすごく恥ずかしく思えてきて、人前であまり母のことを呼ばないようにしていたのを今でも覚えている。だって、お母様って…。無理がありすぎる…。

 よく、地方特有の大きな激安スーパーで、わたしたち姉弟が「おかあさまー!おかあさまー!」と母を呼び探していたことは、今となってはもう黒歴史でしかない。何が悲しくて割引シールの貼られたお肉のパックを持つ母を「お母様」と呼ばなければならないのか。弟と私の間で「あれさ、マジでなかったよね」「封印したい過去だよね」といつも言い合っているのだ。

 そして現在、お母様は頻繁に電話をかけてきては「ねぇ!お盆にそっち行くんだけど、会えないの?この前も時間とれなかったよね?!」と“お母様”らしからぬ物言いで怒りまくっているのだった。

 小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
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