小林リズムの紙のむだづかい(連載118)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/

四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

小林リズムさんが「ミスID」2014にセミファイナリスト51人中に選ばれました。リズムさんが「ミスID」2014に選ばれるように応援しましょう。
http://www.transit-web.com/miss-id/


紙のむだづかい(連載118)
小林リズム

【先輩の秘密を知る】
 
先輩「私の彼は“これは男がするのが当たり前だ”って言うんですよ」
先生「へえ!日本人では珍しいね」
先輩「いや、カナダ人なんです」

 社内でレズ疑惑すらあった38歳独身女性の先輩がそう言っていたからびっくりした。あまりにもびっくりして、ICレコーダーの停止ボタンを押してしまったくらいだ。隣を見ると、先輩はいつもと変わらない無表情でパソコンに向き合っている。私は再生ボタンを押して続きを聞く。

先生「結婚しないの?」
先輩「全然考えてないです。まあ国籍も違うし。結婚しないほうがらくかなぁって」
先生「確かにねぇ。あたしも結婚なんてしないほうがよかったって思うよ、ホント」
先輩「まあ実質結婚しているようなもんなんですけどね。もう7年も同棲してるので」

 編集プロダクションでアルバイトをしていたころ、俳句の本をつくっていて、著者との打ち合わせに録音したテープの書き起こしを任されていた。取材した内容が聞けるのは楽しかったし、タイピングの速さだけは自信があったので、私はこの仕事を担当するのが好きだった。
 けどまあ、いくら好きとはいえ、5時間もぶっ通しで続けていると、感覚がマヒしてくる。頭がぼうっとして、話している内容が理解できなくなってくる。ひたすら聞いた言葉を文字に起こしていくという人間変換器になったようで、体力も精神力も擦り減っていってしまう。そんなときの出来事だったので、私の脳内は一気に覚醒した。

 私の隣に座っていた先輩は、女の子がすき、だと思っていた。出社してから挨拶をすると「きゃぁ、やっぱり女の子が隣の席だと嬉しいねぇ」と連呼し、やたらと盛り上がるので社内では「レズなのかもしれない」と噂されていた。のに、まさか恋人がいるなんて。しかも、異国の。

 故意でないのに誰かの秘密を知ってしまうのって、恋にときめくときとはまた違った種類のドキドキをくれる。たとえば、友達が内緒でやっているブログを発見してしまったときとか、そこに書かれている内容がディープなものだったときとか。あるいは友人が電車つり革につかまったときに予期せず見えた腋毛とか、隙のない美人な女の子の靴下に穴が開いていて、それを一生懸命に隠しているのを見つけたときとか。
 人に言いたいけど言えないという葛藤と、自分だけが知っているという変な優越感がまざって興奮する。何より「この人はわたしが知っているということを知らないんだ。でもそれをわたしだけが知っているんだ」という意識が膨張していって、なんだか相手に親近感を持つのだった。これが男女だったら、このドキドキを恋だと勘違いするかもしれない。

 でもね、本当のずるいことと言ったら、知らないふりして近づこうとすることだと思う。先輩に「海外の人と交流してみたいなぁって、最近思ってるんですよ」とか、何気なさを装ってそういうトラップをかましたりして、「この子と気が合うかもしれない」って思わせるのってマナー違反な気がする。でも、ついそれをやってしまう。知らないふりして共通点を作ったり、趣味を合わせたり、してしまう。
 そうやってできあがるのは、片方は「気が合うなぁ」と思い込み、もう片方は「趣味を合わせた」ということを知っているいびつな関係なのだけど、それって相手に嘘をついているのと同じなのかもしれない。でも、趣味や話を合わせたほうにも愛があるよね、相手とわかりあいたい故の行為だよね、と、思いたいのだった。

 小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
http://ameblo.jp/nanto-kana/

twitter:@rizuko21


※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。