小林リズムの紙のむだづかい(連載112)

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紙のむだづかい(連載112)
小林リズム

【びっくりしたはなし】



「200万200万、バカ野郎!くそったれ!200万200万!くそ野郎!」

 電車とか駅とかで、ひとりごと、それも罵詈雑言みたいな怒りにあふれているものを言う人って1か月に1回くらいは見かけて、そういう人をみるたびに「彼女たちの頭はどうなっているんだろう?」と不思議だった。もっといえば、彼女たちはわたしたち一般の人にはわかり得ない、理解されにくい構造になっているだろうから、「彼女とわたしは違う」と自分のなかで勝手に境界線を引いていた。だってあの人たち、なんか、こわいし。おそらく日常でもあんな感じにマイワールドに入り込んでいるのだろうなと思っていたのだった。

 それだから上に書いたような意味不明のひとりごとをぶつぶつとくちにするオバサンがカフェで私の隣に座ったときは、怯えた。なんでここに座るんだろうとツイてないなぁと自分の運の悪さを思ったのだけど、同じくらいちょっとウズウズもした。聞き取れるか取れないかの、言葉がはっきりしない曖昧な暴言をひたすらしゃべり続けるから、真相を暴いてみたいというか、何に対して怒っていてどうしてそれを自分の心に留められないのか、知りたかったのだ。

 耳をすませて横目でチラチラとチェックしていたけれど、オバサンの言葉は流れるように早口でだらだらしていて、聞き取りづらかった。とりあえずお金のことに関して不満があるようで、机をトントンと指で叩きながら「200万200万」と何度も繰り返していた。あまりにも聞こえづらいので次第に、もっとハッキリとつぶやいてくれないとわからないじゃん。と、何に期待しているのかオバサンにイライラしてきたりもして、「あなたのひとりごとうるさいですよ」という内なるメッセージもこめてわざと溜息をしてみたのだった。

 すると、オバサンが突然グラスのなかに手をつっこんで氷を持ち、それを私の席の机に投げつけてきたからびっくりした。カコーンという音がして私の机からはじきとばされた氷が床に落ちる。ヤバい、なんか文句言われるかも。叫ばれたらどうしよう…。こういう人ってどうやって対処すればいいの?と思いながらそっとオバサンの顔を見ると、
「あぁ、ごめんね」
とにっこり笑ってあやまってきたので、たまげた。目が合ったオバサンの顔と口調はあまりにもふつうで、常識人然としていて、頭がおかしい人にみえなかった。
「いえ、大丈夫です」
と答えると、オバサンはふふっとほほ笑んで席を立ち去っていった。きちんと自分のトレーを片づけている姿も、ふつうだった。

 ふつうに見える人が異常だったときってひやっとする怖さがあるけれど、異常に見える人がふつうだったときも、同じようにひやっとする。あのオバサンはたぶん日常生活で人から疎外されたりしていないし、もしかしたら夫や子どもだっているかもしれない。どこにでもいるふつうのオバサンが、こんなに異常に振る舞えるのだということが、ただもうひたすら、びっくり。

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