小林リズムの紙のむだづかい(連載100)

小林リズム、エッセイ連載百回記念

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四六判並製160頁 定価1200円+税

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紙のむだづかい(連載100)
小林リズム

【かわいいおばあちゃん、になりたい女子】


「かわいいおばあちゃんになりたい」
と言う女子、モデル、タレントがいる。かわいいおばあちゃんって、何それ?と文句をつけたくなる自分がいる。「かわいいオバサン」をすっ飛ばして「かわいいおばあちゃん」になるあたり、彼女たちは相当したたかで、現実を知っている気がする。
 彼女たちのなかでの「かわいいおばあちゃん」というのは、年をとっても笑顔を絶やさず、ちょっと抜けた可愛らしいところもあって、だらしなく太ったり怒ったりしない。「あらあら」と心配したり、マドレーヌだとかパン作りだとかが上手で、カントリー調のお部屋に白い清潔なエプロンをしている。間違ってもテレビを見ながらソファで横になりお尻をかきながらゲラゲラ笑うようなオバサンではない。

 「かわいいおばあちゃん」はきっと、「ババア」と言われる人より、どんなに高齢になっても周りから愛される。ちょっとトボケた行動をするたびに「もう、おばあちゃんたら」と笑われ、孫や近所の人が喜ぶような甘いお菓子を作り続ける。「おばあちゃんのお菓子は美味しいね」と楽しみにしてもらえる。若く可愛らしくちやほやされることに喜びを感じてしまった彼女たちにとって、若さを失うことは想像を絶する恐怖だ。自分よりも若い子が次々に登場し、そこに対抗心を燃やせば燃やすほどお局さん扱いされ、かといって若い子に自分のいた座席を譲るとなると必然的に自分は「オバサン」の定位置につかなくてはいけなくなる。大人の余裕を見せつけようと「あなたたち若くていいわねぇ」なんて言う口の端はピクピクとひきつる。
 昔はうまくいっていた。笑っておけば許された。難しいことは誰かがやってくれた。そんな過去があるからこそ、加齢という現実は余計に厳しく体当たりしてくる。若い子が「できな〜い」と助けてもらっているのを見るのが気に食わなくなる。意地悪なオバサンになんかなりたくなかったのに…。
 そこに現れた理想像の「かわいいおばあちゃん」は唯一残された救いの道なのだ。若さを失っても愛されたい、好かれたい、ちやほやされたいという欲望を一気に背負っている「かわいいおばあちゃん」という夢の終着点。

 「お金に余裕のある老後を過ごしたい」とか「年をとっても仕事を続けたい」と言ったりせずに、ただ「かわいいおばあちゃんになりたい」という女子は、一見従順そうに見える。幸せな女の子だなぁと思わせるけれど、実際のところもっとずっとしたたかで、強欲だと思う。だって、「かわいいおばあちゃん」は、なんといったって女子がなりたい最強のモンスターなのだから。

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