小林リズムの紙のむだづかい(連載91)
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紙のむだづかい(連載91)
小林リズム
【欠陥人間】
キャミソールを着た友人の胸元の、見えるか見えないかぎりぎりの位置にホクロがあるのを見つけて、同性ながらにときめいてしまった。デコルテゾーンよりやや下の場所にぽつりとささやかにあるので、普段はなかなかお目にかかれないはずだ。その焦らし具合がやけに色っぽくて、いいなぁ魅惑的なホクロがあって…と羨ましくなっていたのだった。
マリリン・モンローも同じように、口元にある一点のホクロによってセクシーさが増しているのだろうし、アンジェリーナ・ジョリーは、そのパーフェクトなスタイルと美貌のなかでも大きめの唇が、より彼女の魅力を発揮していると思う。
また、ある人はアップル社のマークは林檎が欠けているところに意味があるのだと言っていた。ひとくちだけ齧られた林檎は、確かにふつうの林檎よりも人目を引く。まるい形の売場に並ぶ林檎よりも、ひとくちだけ欠けていて、売られていても人が手を伸ばさないような林檎のほうが印象に残る可能性はずっと高い。
「欠点は長所に変わることもある」
そう話していたのは、まぎれもなくあの会社の経営者だった。私はその話を面接のときに聞いて、ここの会社にしようと決めたのだ。就職をすることに対してモチベーションが低く、やりたいこともわからない、能力もない、欠点だらけだった私にとって、その言葉は魔法みたいにくるりと見ていた世界を変えた。ここから何か始まるのかもしれないと、思った。その予感はある意味で当たり、あの会社を選択したことで私の人生は大きく変わった。
洗脳されかけたし、裏切られもしたし、社会人になって、退職もして、無職にもなって、途方にも暮れた。周りの子たちが「社会人辛い」とツイッターでつぶやくのさえ羨ましかったし、社会に出て変わっていく同じ年の子たちの言葉に怖いくらい焦りを感じたときもあった。置いていかれる恐怖と、これからどうなろうという不安と、それを擦り切れるんじゃないかというくらい何度も繰り返しているうちに、すっかり開き直ってしまった。
あの経営者に出会わなければよかったとか、あの会社にしなければよかったと、思ったことも数知れない。でも教わったことすべてが嘘だったわけでもないし、無駄じゃなかった部分もある…のかもしれないなぁと一ミリくらい思う。
そういえば「人の自慢話なんて聞いたってちっとも面白くないんだから、ネタになるような失敗はいっぱいしたほうがいいよ」と山下先生は笑っていたけれど、確かにそうだ。成功だらけの人生の履歴書なんて、欠点も隙もないパーフェクトな美人とかイケメン並につまらない(負け惜しみ強がり込み)。それだったらちょっと出っ歯だとか、剛毛だとか、鼻が低かったりするほうが可愛げや面白みがある(と思う)。期待や予想を裏切ることだって刺激になる。その刺激が伝染して新しいものを生み出すこともある。ブルドッグだってかわいいし、ふなっしーだって人気だ。そんな山下先生の言葉を原動力にしながら、今日も絶賛無職やってます。