小林リズムの紙のむだづかい(連載84)

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紙のむだづかい(連載84)
小林リズム

【「俺」と言う人が真面目に「僕」と言う 出席番号38番】


 とりあえずパンケーキ食っとけ!みたいな風潮があるなかで、流されないことはかなり難しい。一時は一日に何人もの若者たちがやたらとパンケーキの画像をSNSで流していたし、ニュース番組でもあらゆるチャンネルでパンケーキを特集したりしていて異常なくらいだった。パンケーキは美味しいし、可愛いカフェでお茶と一緒に楽しめるというお洒落感を出しているから、素敵な自分の生活を演出するにはもってこいで、パンケーキを売りたいお店と、お洒落感を買いたい側のメリットがぴったりと一致していたなぁと思う。
 なんでこんなに意地悪な言い方になってしまうかというと、とあるお店で出されたパンケーキがとんでもないくらいに薄っぺらくてクレープみたいなのに、1500円くらいかかったからだ。それにしては生クリームも少なめだし、かかっているソースもメープルシロップかはちみつで、特にこだわっている感じはしない。これはもう、パンケーキブームに便乗して調子に乗ったとしか思えないのだった。
 …とは言え私もパンケーキが嫌いなはずがなく、むしろ好きでホットケーキミックスにヨーグルトを入れてつくるともちもちとした食感が増して美味しい!という情報を聞き、さっそく家で作ってみたりもしたのだ。いやぁ、確かに牛乳を入れるよりももっちり感があってふわふわしていて美味しかったよ。

 そうやって今ではすっかり新しいものを受け入れたり合わせられるようになったけれど、10代の頃はずいぶんと流行や言葉もろもろのことに悩まされてきた。
 たとえば、高校生まで私は友達のことを呼び捨てにできなかった。「ちゃん」付けで呼んでいたのを、親しくなって呼び方を変える、ということが恥ずかしかったのだ。周りの子たちは、面白いくらいに自然に「あたしのこと呼び捨てで呼んで」「いいよ、わたしのことも呼び捨てにして」というやりとりもなく、いつの間にかしれっと呼び捨てで呼びあったりしているから、私はますますタイミングもつかめず、心の中で思い悩むことになるのだった。そうこうしているうちに「今さら呼び捨てにしても、ねぇ?」みたいな状況になって、メールで「ちゃん」と打ち込むのが面倒だなぁとか、親しさに欠けるよなぁとか、思いつつもどうしようもできないのだった。
 言葉のイントネーションも同じで、たとえば「カレシ↓」ではなく「カレシ↑」と語尾をあげたり、「ライブ↓」ではなく「ライブ↑」と発音したりするのも恥ずかしかった。なんだか気取っている感じがして、野暮ったい自分には似合わない感じもして、誰も気にも留めないことなのに躊躇してしまうのだった。高校生になってから「へぇーライブ↑行ってきたんだ〜」とか、「カレシ↑さんはどんな人なの?」とか、些細なときに自然に使えたりするとちょっと嬉しかった。

 あの頃の小さなこだわりや自意識や悩みは、そのときの自分にとっては一大事だった。自意識が過剰すぎて乗り切れないんじゃないかと思ったことも何回かあった。年を重ねていく過程で「妥協」という言葉を知らず知らずのうちに身に着けていく。大人は、やっぱりすごい。